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労働紛争あっせん委員として、両者を合意に導くことが出来ました
正義の女神像
当方は2021年2月に、千葉県社労士会ADRあっせん委員を務め、労働紛争あっせん事案において、申立人及び被申立人両者の円満合意に持ち込むことが出来ました。申立人夫妻の同一案件での申立のために2件同時の合意となったことは、あっせん委員としても誠に喜ばしい事と感じております。
これまであっせん案件は何回か経験しましたが、申立人と被申立人の希望が合致して合意に至る案件はそんなに多くは有りません。今回は図らずも合意に至ることが出来、あっせん委員として大変嬉しく思っております。
今後共より多くのあっせん事案を経験して、労働紛争あっせん代理事案のスキルアップに努めてまいりたいと思います。当該あっせん事案の概要・感想および今後の改善点等について若干の意見を申し述べさせていただきます。今後社労士会のADR斡旋申し込みを希望する皆様にとっての一助となる事を願っております。
あっせんの概要及び当事者の主張 |
1.あっせんに至る経緯(申立書概要) |
・202✕年○○月末夕方に、S夫妻は愛犬の散歩中に、愛犬の轢死事件に遭遇した |
・これを原因として、夫妻共に精神疾患を発症し、あっせん当日までの3ヶ月超休職中。精神 |
・事件発生直後に会社へは概況説明をすると共に、暫く休業したい旨の報告済み |
・会社は無断欠勤だとして、即時の職場復帰が出来なければ、退職を勧奨。その後、夫妻共 |
・202✕年△△月、夫妻は千葉県社労士会にADRあっせんの申立てを行うために、「あっせん |
・その間、会社は他の社員がS夫妻の穴埋めをすると共に、ハローワークへの代替要員手配中 |
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2.あっせん申立書記載の「解決を求める事項」 |
①退職強要行為の停止 |
②復職を求める |
③解決金として○○万円の支払いを求める |
④「新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金」○万円の支給 |
1.病気を理由とする退職
区分 | 解雇可能となる時期 | 付記 |
私傷病に拠る場合 | 就業規則等で定める休職期間が満了しても傷病が治癒せず復職出来ない時は、休職期間満了時 | ①まず休職させることが必要。休職させずにいきなり解雇することはできない ②解雇に関する就業規則の定めが必要 ③即時解雇の場合、30日分の解雇予告手当の支払い必要 |
業務に起因する病気の場合 | 療養のための休業期間及びその後30日間が経過した時(労基法19条1項) | ①左記期間中は、いかなる意味においても解雇不能 ②但し、左記期間中の解雇の意思表示は、左記期間経過後に効力を発する |
2.病気を理由とする退職は会社都合か自己都合か
区分 | 退職事由 | 付記 |
会社都合 | ①病気を理由として会社が従業員を解雇する場合 ②従業員が会社の退職勧奨に応じて退職する場合 | 特定受給資格者として雇用保険法の解雇に該当し、3か月の給付制限はない。助成金助成率等に差異が生じる |
自己都合 | ①病気を理由として従業員から退職を申し出た場合 ②病気や体力の低下等により、退職せざるを得ない状況に至った場合 ③休職期間満了により就業規則の規定により自動退職となる場合 | 特定理由離職者(正当な理由のある自己都退職)として扱われ、雇用保険の3ヶ月の給付制限なし。あくまで自己都合退職として扱われるため、助成金の受給には影響しない |
3.本件の状況確認
確認事項 | 内容 | 付記 |
病気と業務の因果関係 | 私傷病であり、因果関係なし |
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就業規則の定め | 解雇や休業期間の定め無し(就業規則無し?) |
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退職に至る経緯と理由 | 11月10日の会社側のU氏から、「(治癒後に)復職まで待てない。すぐ復職するか辞めるかいずれかだ」と言われた。但し、「事業主から退職勧奨を受けたことにより離職」する特定受給資格者には該当しない | ①すぐ復職することは不可能であり、結果的に退職勧奨を受けたともいえる。 ②解雇するには30日前の解雇予告手続きが必要 |
4.和解内容の検討覚書
労働契約に関する労働契約法の定め
第3条(労働契約の原則)
第1項 労働契約は、労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、ま
たは変更すべきものとする。
第4項 労働者及び使用者は、労働契約を遵守すると共に、信義に従い誠実に、権利を行
使し、及び義務を履行しなければならない。
第6条(労働契約の成立)
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意する事によって成立する。
①労働契約法では、労使間の労働契約が成立するには、まず労働者から労働契約に定める一定の要件に合致する適正なる労働の提供が可能であることが必要とされる。
②しかるに本件におけるS夫妻は、愛犬の轢死と言う全くの偶発的な事故を起因とする精神疾患により、昨年の10月末以来3ヶ月超の期間に亘り、労務提供不能の状態が続いている。もしS夫妻の精神疾患が、業務上の事由によるものであれば、当該疾病の療養期間及びその後30日間の解雇或は退職の強要はできず、会社側も治癒するまでに相応の配慮が必要と言える。
③しかしながら今回のS夫妻の精神疾患の発症は、全くの偶発的な事故を起因とするものであり、会社側には何らの帰責事由が見当たらない。
④2019年10月頃からのパワハラの記述はあるが、今回のあっせん申立との関係は薄いと言える。これは今回のあっせん申立に当たり、会社側の安全配慮義務違反を証拠立てるために、入社後の労働トラブルらしきものを洗いざらい拾い上げたものと考えられる。もし当該パワハラだけで、大きな問題となっていたのであれば、この事案だけであっせん申し立てができたはずである。
⑤私傷病の休業期間は、会社の就業規則等で定める内規に従い統一的に処理をして、当該休業期間の終了により退職となるのが普通である。当社においては就業規則自体が存在せず、本件は個別の事案として判断・対処せざるを得ない。
⑥事件が発生した昨年10月30日以来既に、3か月以上経過している。この間会社側は、S夫妻の担当していた業務を処理できなければ事業の継続が不可能であったと言える。ハローワークで替わりの人間の募集を手配済みの様である。若干手配のタイミングが早く信義的に問題はあるが、代替要員の手配は事業継続のためには是非とも必要なことであり、会社側を責めることはできない。
⑦離職理由を解雇とすることは、両者にとって望ましいことではない。申立人たる労働者側にとっては、会社を解雇されたと言う不名誉な事実が残り、被申立人たる会社側にとっても従業員を解雇した事による会社への世間的な評価を傷つけることになり、各種助成金の支給等に支障が生じる場合がある。従って、離職理由は、解雇以外のもの、例えば両者の合意に基づく円満退社等とすることが、両者にとって望ましい。
⑧事件発生後3ヶ月以上経過しても出社不能であれば、S夫妻の退職は避けられない。S夫妻の出勤不能により、正式な退職手続きは未だ進んでいないと思われるので、会社都合か自己都合かを論ずることなく、この2月末をもって、「申立人及び被申立人両者の合意による円満退社」としては如何かと思う。
⑨雇用保険法上のハローワークにおける離職事由は、負傷や疾病により退職せざるを得なかった「特定理由離職者(正当なる理由ある自己都合退職)」として、3か月間の給付制限は課されない。ただし、雇用保険法の基本手当は、働く意思と能力のあるものが対象であり、現在の両夫妻の精神疾患による労務不能の状況が続く限り、基本手当の支給対象とはならない。
⑩甲は解決金として○○万円の支払いを求めており、内容は被申立人たる会社側の労働契約法第5条に定める安全配慮義務違反と民法715条の使用者責任違反を挙げている。この様な事実の確認は極めて難しい。むしろ夫妻共に、全く思いがけず労働不能となり退職せざるを得ない事態となった事に対する見舞金兼退職一時金として、夫のS氏にまとめて給料1月分の解決金○○万円を支給したらいかがかと考える。同社に退職金等の規定はないのかも知れないが、この2月末で夫のS氏は入社後約3年、S婦人は約4年に達するわけで、両者にとって妥当な金額と考える。
⑪新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金は、未払であれば会社は至急支払う義務がある。又、S婦人に対する未払交通費も然りである。本件あっせん申立とは無関係と考えられる。
1.あっせん実施日時:202✕年2月○○日
2.場所:千葉県社労士会3階あっせんコーナー
3.あっせん事案(同一事案についてご夫妻からの申立て)
①千葉県社労士ADR令和2年第2号(S氏からのあっせん申立)
② 〃 第3号(S氏婦人からのあっせん申立)
4.合意内容概略
①甲は、2021年2月末日で退職することで乙と合意。有給休暇残日数は給料に充当する
②乙は甲に対して、解決金○○万円を当年3月1日までに支払う(S氏のみ)
③乙は甲に対して、未払交通費○○万円を支払う(S氏婦人のみ)
④乙は甲の退職前に、傷病手当金の申請手続きを遅滞なく行う
⑤甲は、乙の立替ている社会保険料及び住民税を支払う
⑥乙は甲の離職票上の離職理由を、会社都合である事を証明する
※乙は当初、甲の退職理由を自己都合と主張していたが、あっせん手続き中に、会社都合
退職であることに同意した。
⑦甲と乙は、本和解契約に定める他の債権債務の無いことを確認する
⑧甲と乙は、本和解契約内容を、他に漏らさないことを確認する
(注)あっせん申立人側を甲、被申立人側を乙とする
今回のあっせんは、概ね次のような項目・順番で行っている。
①申立人のあっせん申立書と被申立人のあっせん答弁書内容の確認
②復職の可否と、退職とした場合の退職事由の確認
③解決金額のあっせん委員からの提案と、両者からの意見聴取
④あっせん合意内容の最終確認と合意書の作成・押印
①今回のあっせん事案は、病院に事務職員として勤務していたS夫妻が、202✕年10月末
夕方に愛犬の散歩中の轢死事件により、夫妻共に同様の精神疾患を発症して、それ以後3
か月超に亘り共に出勤不能に至った事案である。
S婦人の事案は主として午前中に、S氏の事案は午後に審理した。しかしながら本事案は
2つとも同一事件に属するものであり、2つに区分しないで同一案件として一緒に審理した
方が時間も節約でき、より効率的かつ的確な審理が出来たと思う。
②凡そ上記のような流れで審理を行ったが、申立人と被申立人が顔を合わすことの無いようにとの配慮で、個々の論点について申立人との話し合い後に、同一内容について被申立人からも意見聴取している。従って、少なくとも10回は申立人と被申立人の入れ替えを行っている。
後日の千葉県社労士会ADR研修で、A弁護士の講習の中にもあったように、あっせんによる調停には一般的な「別席調停」以外に「同席調停」があり、申立人と被申立人が顔を会わせることを避けるべきものは「別席調停」により、そうでないものは「同席調停」とした方がいい場合があると言う事である。
即ちあっせんは全て別席によるものと固定的に考えずに、事案によっては申立人と被申立人が直接顔を会わせ、これまでの話し合い不足による誤解や理解不足点について話し合い、両者納得の上であっせん案をまとめた方が良い場合もあると言う事である。
③本来は、あっせんによる話し合いをより効率的に進めるために、両者からの意見聴取と合意に至るまとめに要する時間を極力多くするべきである。しかしながら実際は、両者との話し合いの時間に劣らず、両者の入替や手待ち時間として消費した時間が多くなっている。今後のあっせん手続きは、出来るだけ同種類の検討事項はまとめて、調停以外の時間を少なくすることが望ましいと考える。そうすれば両者への聴取の時間を多くでき、より両者が満足いく話し合いを行い、内容あるあっせん合意を導くことが出来ると考える。
④あっせん合意書へのあっせん内容の記入及び当事者による確認・押印は、いちばん最後にまとめて1回で済ますようにしたい。
⑤お昼休みは通常通り、12時から13時にした方が宜しいと思う。普段ほとんどの方は同時間にお昼休みを取っているわけで、何も本件だけ1時間遅くする必然性は無いと考える。以上に記載の通り、あっせん手続きを極力効率的に進めれば、12時から13時の間にお昼休みを取ることに何の支障も無いと考える。
①当然のことながら、事前にあっせん申立書及び同答弁書を十分読み込んで、流れを十分頭に入れておくことが必要と考える。あっせんはどうしても、両者の主張の中間点で折り合いをつければいいと、最初から妥協点を探りがちであるが、まずは事案の実態に即した法律的な見地からのあるべき着地点を探る事から始めるべきではないかと考える。そしてそれから、妥協点を見出してゆくと言う順番になるべきと感じた次第である。
②今回のあっせん事案は、県会の労働相談への相談事案ではなく、あっせん申立代理人・N氏の事務所に問い合わせがあった事案だそうである。今回あっせん合意に持ち込むことが出来たのは、同氏に対するあっせん申立人及び被申立人からの信頼もあったが故と感じております。
①最後に和解契約書を作成して、押印していただいた後にあっせん申立人に、「合意金額
が、あっせん申立書記載金額をかなり下回ってしまい、残念でした。」と申し上げたと
ころ、「自分たちだけで交渉したのでは、合意に持ち込むことはできなかったでしょ
う。ご尽力いただき感謝申し上げます。」との言葉を頂、大変嬉しく思った次第です。
次年度以降、千葉県社労士会のADRあっせん事案が飛躍的に増える事を期待したいと
思います。
②被申立人からも、「申立人が会社を休職した後ほぼ3ヶ月が経過しており、その間充分
に意思の疎通も行えず、後任の手配もできないままで困っておりました。今回、千葉県
社労士会の仲介のもと、あっせん委員のご尽力により合意に至ることが出来ましたこ
と、大変ありがたく思います。」との感謝の言葉を頂きました。
③あっせんの前後における事務局側のご尽力・ご協力のお蔭もあり、合意に至ることが出
来たと感じております。
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