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議員立法と内閣立法の相違

まもなく第9次社労士法改正がスタートします

議員立法と内閣立法(閣法)の相違

1.前書き

 憲法第41条(国権の最高機関、立法権)には、「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と定められております。そしてこの立法には2つの方法があります。議員立法と内閣立法(閣法)です。

 議員立法は憲法第41条の基本理念に基づき国会議員が法案を作って国会に提出する本来の方法です。私共の社労士法の制定・改正も議員立法の賜物です。一般的に、議員立法は国民生活に密着したものが多いと言われております。

 これに対して内閣立法は、主として時の政権与党の内閣が自らの政策を実行に移すために、法案を各省庁の官僚に起案させて内閣総理大臣の名前で国会に提出するものです。特定の分野に限定したテクニカルな法案が多いと言われております。

 因みに現行憲法では、国家権力を司法・行政・立法の三権に分け(三権分立)、司法権は憲法第76条により裁判所に、行政権は憲法第65条により内閣に、立法権は憲法第41条により国会にと、各々独立した国の機関に分担させております。そしてこれらの各機関の独断専行と権力の乱用により国民の権利が侵害されることのないように、相互に監視・けん制する制度となっております。 

 日本では議員立法による法案の提出件数が全体の約6割を占め、内閣立法よりも多くなっております。しかしながら下記に記載の事情により、官僚主導による内閣立法による法律の成立が全体の約8割を占めております。

 日本と同じく議院内閣制を採るイギリスにおいても議員立法と内閣立法の2つの制度があります。2007年から2017年までの実績を見ると、日本のような厳格な発議要件がないこともあり法案の総提案数は、議員立法が全体の約8割(日本は約6割)を占めております。但し、内閣立法の法律成立割合はその提案数の約9割(日本とほぼ同じ)、議員立法の場合5%程度(日本では約17%)にとどまっており、イギリスにおける議員立法の成立は日本よりもさらに厳しい状況となっております。そういう意味からも議員立法による法律の制定は、我が国のみならず英国においても極めてハードルが高いといえます。

 大統領制的議院内閣制をとるフランスにおける2008年から2018年の実績を見ると、内閣法の法律成立割合は法案提出数の40.7%、議員立法の場合2.2%と極めて低くなっております。大統領制のアメリカでは、立法の発議は議員立法だけとなっており、大統領には法案の発議権はありません。
 尚、以上のイギリスとフランスの実績数字は2019年の国立国会図書館の調査によるもので、2021年11月17日付の日経電子版に掲載されております。

 因みに、日本における歴代の議員立法による法案成立件数の最も多いのは、田中角栄元総理の33本だそうです。1947年に29歳の時に国政選挙に初当選して、未だ陣笠議員の10年間に25本成立させたそうです。共同提出した法案は100本以上とのことです。この記録は前代未聞であり、今後も破られることはないだろうと言われております。

日本における最近成立の法律件数(内閣法制局データに準拠)

暦年

内閣立法

議員立法

合計

提出数

成立数

提出数

成立数

提出数

成立数

2021

63

61

96.8

86

21

24.4

149

82

55.0

2020

66

62

 93.9

89

13

14.6

155

75

 48.4

2019

72

68

94.4

96

22

22.9

168

90

 53.6

2018

78

73

93.6

159

29

 18.2

237

102

 43.0

2017

75

71

94.7

164

12

 7.3

239

83

 34.7

2016

75

68

 90.7

198

31

 15.7

273

99

 36.3

2015

75

66

 88.0

72

12

 16.7

147

78

 53.1

2014

112

100

 89.3

107

29

 27.1

219

129

 58.9

2013

98

83

 84.7

126

20

 15.9

224

103

 46.9

合計

714

652

91.3

1,097

189

17.2

1,811

841

46.4

 最近9年間の実績を見ると、国会における法律成立数の約8割が内閣立法によります。内閣立法の法律成立割合がその提案数の91.3%と高いのに対し、議員立法では17.2%となっております。但し、内閣立法及び議員立法共に、法律成立割合が年々上昇してきていることに注目したいと思います。
 議員立法による法律成立割合が内閣立法に比較して、かなり低くなっておりますが、提案される法律の内容や、成立に至るまでの制度的な差異等を考えますと、決して不当に低い
は言えません。むしろ諸外国との比較ではかな
り高いといえます。

2.法律案を出せる要件(発議要件)

1)発議要件に対する国会法の定め
 日本の議員立法は、国会議員が1人で提案することはできません。国会法第56条に発議要件が定められております。

 「議員が議案を発議するには、衆議院においては議員二十人以上、参議院においては議員十人以上の賛成を要する。但し、予算を伴う法律案を発議するには、衆議院においては議員五十人以上、参議院においては議員二十人以上の賛成を要する」。特定の政治家による自らの選挙区への利益誘導的な法案だけを成立させることのないようにとの配慮のようです。但し、今日においてはこのような利益誘導的な法案の提出は極めて少なくなっております。

 これに対して内閣立法の場合には、このような厳格な発議要件はありません。内閣法第4条2項に、「閣議は内閣総理大臣がこれを主宰する。この場合において、内閣総理大臣は、内閣の重要政策に関する基本的な方針その他の案件を発議することができる」という規定に従い、内閣としての政策の実行に必要な議案を策定し、国会に提出することができます。

2)現在の厳しい発議要件が定められた由来
 日本の現在の国会法第56条に定める発議要件は、戦前の帝国議会の議員法第29条に端を発しております。その発議要件は、現在とほぼ同じ厳しい要件となっておりました。それが戦後のGHQによる指導により1947年の国会法制定時は、議員が自由に法案を発議できると改められました(旧国会法第77条)。しかしながら、国会議員による自由な法案の発議により、議員自らの支持基盤に対する利益誘導的な法律制定が増えたために、1955年に国会法が改正されて同法第56条に、再度戦前の議員法第29条に定める厳しい発議要件が復活しました。

3)各党の内規による発議要件の加重
 議員立法には、上記国会法に定める発議要件以外にも、各議員が所属する政党の機関承認を得ることが必要とされます。自民党の場合であれば、党四役(幹事長、総務会長、政調会長、国対委員長)の承認の署名がなければ議会事務局では法案を受理しないことになっているそうです。具体的には自民党の総務会、政調審議会、部会、関連する特別委員会等の場において、原則として全会一致による承認が必要とされます。他のすべての政党についても党の承認のない議員立法は受け付けないようにとの議会事務局へのお達しがあるそうです。

 それでは、諸外国においてはどうかと言うと、法案の提出に当たり会派の承認を要するとする国は多いが、会派の承認を得ない法案は一切提出できないとする国は極めて少ないとの研究結果が公表されております。即ち、日本においては国会法に定める発議要件が、各党の内規によりさらに加重されているといえます。この辺の裏事情については自民党の某有力議員が、若かりし頃の思い出を込めて、「議員立法の怪」としてインターネット上で公にしております。

4)日本の議員立法発議要件の諸外国との比較
 上記日本の議員立法の発議要件は世界で最も厳しくなっております。ヨーロッパ主要国とアジアの3か国合計の25か国中、発議要件無し(=議員1名でも発議できる)の国は19か国となっており、次の6か国には発議要件があります。すなわち、発議要件のない国が圧倒的に多いということです。

・日本・・・20人以上、予算を伴う場合50人以上(世界一厳しい。更に内規で要件が加重)
・オーストラリア・・・(5人の賛同者が必要)
・ドイツ・・・総議員の5%以上の賛同者が必要(日本に次いで厳しい)
・韓国・・・発議者を含め10人以上の賛同者が必要
・スペイン・・・発議者以外に14人の賛同者が必要
・タイ・・・10人の賛同者が必要

(注)当該数字は、「早稲田政治公法研究」第114号所収の五ノ井健先生の「日本の議員立
  法・国際比較の視点から」に準拠しております。

3.法律が出来るまでの流れ

《議員立法》
 国会議員が法律案を作成する場合は、衆参それぞれの法制局がアドバイスやチェックを行います。衆議院議員が立案する場合は衆議院法制局が、参議院議員が立案する場合は参議院法制局がサポートします。審査が終わると、議員それぞれが所属する衆議院又は参議院に法律案が提出されます。

 但し、官僚等出身の一部の国会議員を除き、大部分の国会議員は法律を作るプロではありませんので、法律の体裁や用語、既存の関連法との論理的整合性のとれた法案を作ること自体に多くの労力を費やさざるを得ません。更に、議員立法の場合には、衆議院法制局または参議院法制局からのサポートを受けられるとは言いながら、内閣法の場合のように素案の段階からのサポートではありません。人員の不足や制度的な問題により、内閣法の場合ほどの充分なサポートが受けられていないと言われております。

 前述の通り、日本の議員立法には世界一厳しい発議要件があります。更に国会に提出される前に、党内の部会・委員会等の原則として全会一致による賛同を得るための根回しが必要とされます。発案者たる国会議員は多忙な議員活動の合間を縫って、普段あまり経験したことのない法案作成の仕事をこなさなければいけないので、議員立法の提案は至難の業といえます。

 法律案が衆議院または参議院に提出されると、議長はその議案を所管する適当な委員会に付託して内容の検討をさせます。但し、緊急の法案については議員の議決により委員会における審査を省略できるとされております。委員会を開くには所属委員の半数以上の出席が必要で、出席議員の過半数の賛成で決定されます。現在衆・参両院には常設委員会として17の委員会が存在しており、国会議員の先生はいずれかの常設委員会への所属が義務付けられております。各々の委員会に20人以上40人前後の国会議員の先生方が所属しております。更にその時の必要に基づき設けられる少数の特別委員会も存在します。

 当委員会では議案提出者から提案理由の説明を聴取した後、各委員が提出者、国務大臣、その他の関係者に一問一答の形式で質疑を行います。そして当委員会で評決の上可決されると、本会議で審議されます。本会議でも可決されると、他の議院に送付され同様の手順を経て、法律として成立します。

 発議要件を満たせない少数野党の場合、国会議員としての重要な職能である国会への議案の提案自体ができません。たとえ発議要件を満たしても議員数の少ない少数野党の法案は成立しないどころか、審議・採決すら行われないのが実情のようです。
 更に
、議員立法の場合、内閣立法の審議を邪魔しないことが前提となっております。従って、内閣法の審議が終了した後の残りの国会会期で審議されるために、ほぼ全議員による満場一致でないと法案が成立しません。もし質疑等で時間を空費した場合、うまくいっても継続審議、通常は時間切れで廃案となってしまいます。

 ちなみに継続審議とは、国会会期中に成立しなかった法案のうち、例外として委員会付託になっていた法案について、国会閉会中における委員会の審議を経て、次の国会の審議法案として引き継がれる制度です。

 議員立法の作り方に関する苦労話は、弁護士でもある山下貴司衆議院議員が、岡山行政法務実務研究会より発行された「議員立法の作り方-改正ストーカー規制法と空き家対策特別法などを題材に」において詳細に紹介しておられます。

《内閣立法》
 内閣法(閣法)の成立・公布までは概ね次のような流れで行われます。

①主として各省庁における法律案の原案作成
内閣法制局における審査
③国会提出のための閣議決定
④国会における審議
⑤法律の成立
⑥法律の公布・施行
(注)当該流れの中で議員立法と大きく異なるのは、②内閣法制局による審査を経る点です。

 内閣が提出する法律案の原案は各省庁で作成されます。それらは閣議にかけられる前に、すべて内閣法制局によって審査が行われます。内閣法制局による法案のチェックは、各省庁における法律案の完成を待たずに、法案編成作業の進行と同時に予備審査の形で進められます。内閣法制局による具体的な審査内容のポイントは次の4点です。

憲法や他の法律との整合性
②立案の意図に対する表現の正確性
③条文の表現や構成の正しさ
④文章中の用字・用語の適正さ

 内閣立法の場合は国会の場で審議が行われる前に政権与党の内部で、法案の該当する部会・委員会等で十分に内容の検討が行われます。法案によっては有識者への諮問や、委員会開催前に公聴会(一種の勉強会)が開催されます。審査を経た法律案は内閣総理大臣を議長、官房長官を進行役として、首相官邸における閣議にかけられます。この閣議における決定条件は全員一致です。そして閣議決定後、内閣総理大臣名で国会に提出されます。

 内閣提出の法案が衆議院または参議院に提出された後の委員会における審査や本会議における審議の流れ、及び法律として成立するまでの流れは議員立法の場合と同じです。但し、議員定数の過半数を有する政権与党が国会に提出する内閣立法であれば、国会の承認を得て法律として成立する可能性が極めて高いのは当然と言えます。

 内閣立法として提出される法案には議員立法に定めるような厳格な発議要件はありません。更に各省庁の管轄分野について一番精通している専門家の官僚が起案することと、内閣法制局の厳格なチェックを経て提出されるため法制化される割合が高くなっております。また、内閣立法は議員立法に先んじて国会で審議されるため、議員立法法案が国会会期切れで廃案となる場合があるのに対し、法律として成立する可能性が高いといえます。

4.国会での審議の流れ

 通常は、衆議院から審議が始まります。前述の通り、法案は国会で審議される前に国会内に設置された常設委員会または特別委員会で、法律案の詳細な審査を行います。委員会での審査の結果、必要があれば修正案が作成されます。議案によっては公聴会を開催して、学識経験者や関係者の意見を聴取する場合もあります。

 法案は委員会での審査の後、いよいよ本会議で審議されることになります。本会議で可決されると、法律案は参議院に送付されます。参議院でも、衆議院の時と同じように、委員会で審査が行われ、参議院の本会議でも可決されれば、晴れて法律として成立します。尚、国会における法案の採決は、衆・参共に総議員の3分の1以上の出席で開かれ、特別の場合を除いて出席議員の過半数の賛成で可決されます。

5.衆参の意見が分かれた場合

 衆議院先議で審議された法案が否決された場合は、廃案となります。しかし、衆議院で可決された法律案が、参議院では否決されることもあります。この様な場合に法律案を成立させるには2つの方法があります。

 一つは「両院協議会」を開いて、衆参両院の代表が意見の一致を図る方法。話し合いの結果成案が得られた場合は、それぞれの議院で可決されると成立します。もう一つは「衆議院の再可決」です。衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決された場合は、法律となります。但し、参議院先議で可決しても、衆議院が否決した場合は救済策はなく、その段階で廃案となります。

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