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一審労働者側敗訴、二審労働者側勝訴、三審も労働者側勝訴となりました
判決言渡し後、勝訴
を訴える原告労働者側
ハマキョウレックス事件「平成28年(受)第2099号 未払賃金等支払請求事件」平成30年6月1日 最高裁第二小法廷判決
裁判長:山本庸幸、裁判官:鬼丸かおる、菅野博之、三浦守
判決言渡し:16時からの長澤運輸事件判決言渡しに先立ち、14時30分より同場所にて行われた(同一裁判長及び同一裁判官による判決)
主 文
1 上告人(会社側)による本件上告を棄却する。
2 原判決中、被上告人(労働者)の平成25年4月1日以降の皆勤手当に係る損害賠償
請求に関する部分を破棄する。
3 前項の部分につき、本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
4 被上告人(労働者)のその余の附帯上告を棄却する。
5 上告費用は上告人の負担とし、前項の部分に関する附帯上告費用は被上告人の負
担とする。
(ハマキョウレックス事件における当事者間の法律関係)
当事者 | 一審(大津地裁) | 二審(大阪高裁) | 三審(最高裁) |
労働者側 | X原告 | 〇控訴人 | 〇被上告人 |
会社側 | 〇被告 | X被控訴人 | X上告人 |
〇印-勝訴 X印-敗訴
(訴訟の経緯概略)
平成25年9月 大津地裁彦根支部へ提訴
平成27年9月16日 第1審大津地裁彦根支部判決
平成28年7月26日 第2審大阪高裁判決
平成30年6月1日 第3審最高裁判決
労働契約法は平成19年12月成立の比較的新しい法律であるが、同法は平成25年4月1日施行改正で法20条を新設して、「期間の定めがある事による不合理な労働条件の禁止」を求める新しいルールを定めた。上記最高裁判決は、同条新設後はじめての、正社員と有期契約労働者や定年後再雇用者との間の不合理な労働条件の格差に対する判断を示す画期的な判決となった。
(労働契約法20条条文)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
(以上の要約)
有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違は、両者の遂行する職務内容(業務内容及び責任の程度)、配置転換の範囲、及びその他の事情を考慮して、不合理なものであってはならない。
即ち本事件に照らして言えば労働契約法20条では、有期契約労働者の賃金等の労働条件は、①職務内容とその責任の程度、②職務内容と配置の変更の範囲のみならず、③その他の事情も考慮して幅広く、総合的に判断することを求めている。
1 本事件の概況
原告Xは、45歳当時の平成20年10月より浜松市に本社のある㈱ハマキョウレックスとの間に半年ごとの有期労働契約を更新してきた。同社は、東証第1部上場の正社員だけで約4,600人の従業員を有する全国展開の大手運送会社であった。Xと正社員の職務内容等に何ら相違はないにもかかわらず賃金に格差があり、各種手当(無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、通勤手当、家族手当、賞与、定期昇給及び退職金)の内、通勤手当の一部のみが支給されていた。Xはこのような格差を不服として、労働契約法20条及び公序良俗(民法90条)違反として同社を提訴した。
2 一審におけるXの請求
1)主位的(第1次的)な請求
①原告労働者Xに対しても、正社員に対して適用される就業規則等が適用される労働契約上の
権利を有する事の地位確認請求。
②債務不履行による損害賠償責任(民415条)により正規社員と非正規社員との賃金差額及び諸
手当未払額の支払及び年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
2)予備的(第二次的)な請求
不法行為責任(民709条)及び公序良俗違反(民90条)による、上記差額に相当する額の損
害賠償金及びこれに対する年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
3 本事件と長澤運輸事件との相違
同日、同一場所、同一裁判官により16時から判決言い渡しが行われた長澤運輸事件においては、会社側が概ね勝訴した。これに対して当該ハマキョウレックス事件においては、概ね労働者側が勝訴した。
当該両裁判は共に労働契約法第20条違反の有無を問うものであったが、その内容において、かなり趣を異とする事件であったと言える。即ち、長澤運輸事件は原告労働者3名共に、30歳前後の比較的若い年齢時から60歳の定年退職時まで30年前後に亘り継続勤務し、退職金受給後に65歳まで1年毎に嘱託社員契約を結んで継続勤務をした事案であった。即ち、高齢者雇用安定法が定める65歳までの継続雇用を達成するための5年間に限定した問題であったと言える。
それに対して、ハマキョウレックス事件における原告労働者は、途中入社とは言いながら
45歳から最高裁判決時の55歳時まで、半年毎に嘱託社員として有期労働契約を反復更新してきたものである。同労働者はハマキョウレックス社に勤務開始した当初より、正規労働者に比較して日常業務に関しては殆ど差異がないにも拘わらず、基本給や賞与、その他の福利厚生面の全てにおいて労働者としての基本的な人権の侵害に相当する程の格差を受けて来ており、その生涯賃金の差異は到底甘受しえない程の大きな格差となっていたことがあげられる。
今後日本の本格化する少子高齢化の時代においては、会社は従業員を新卒の労働者のみで
賄うことは困難であり、自ずと労働者は中途入社及び多国籍化することは避けられないと考えられる。従って長澤運輸事件は、日本の旧来の終身雇用制の延長上の労働問題であったのに対して、ハマキョウレックス事件は、これからの日本の労働市場の変化を先取りする意味合いのある事件であったと言える。両事件ともに労働契約法第20条違反を問う事件ではあるが、今後日本においても本格化されると思われる、「同一(価値)労働同一賃金」の本質が問われる事件であったと言える。
当方は当該HP内に、「長澤運輸事件の最高裁判決が出ました」と題して、同事件の一審から最高裁判決に至るまでの経緯を網羅して記載しております。ハマキョウレックス事件の概況をより良く理解していただくためには、長澤運輸事件についても参照していただくことをお勧めしたいと思います。
1 労働契約法20条における「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者間の労働条件の相違が、それら労働者間の①職務内容 ②職務内容・配置の変更の範囲の異同 ③その他の事情を加えて考察して、当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるを得ないものを意味すると解すべきところ、Y社の彦根支店においては、正社員のドライバーと契約社員のドライバーの業務内容自体に大きな相違は認められないものの、Y社は、従業員数4,597人を有し、東京証券取引所市場第1部へ株式を上場する株式会社であり、また、従業員のうち正社員は、業務上の必要性に応じて就業場所及び業務内容の変更命令を甘受しなければならず、出向も含め全国規模の広域異動の可能性があるほか、Y社の行う教育を受ける義務を負い、将来、支店長や事業所の管理責任者等の被告の中核を担う人材として登用される可能性がある者として育成されるべき立場にあるのに対し、契約社員は、業務内容、労働時間、休息時間、休日等の労働条件の変更がありうるにとどまり、就業場所の異動や出向等は予定されておらず、将来、支店長や事業所の管理責任者等の被告の中核を担う人材として登用される可能性がある者として育成されるべき立場にあるとはいえない。従って、本件において被告たるY社の労働契約法20条違反は認められない。
2 Y社におけるこれら労働者間の職務内容や職務内容・配置の変更の範囲の異同等を考察すれば、少なくとも無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当及び家族手当、一時金の支給、定期昇給並びに退職金の支給に関する正社員と契約社員との労働契約条件の相違は、Y社の経営・人事制度上の施策として不合理なものとはいえないというべきであるから、本件有期労働契約に基づく労働条件の定めが公序良俗に反するということはできないことはもとより,これが労働契約法20条に反するということもできない。
3 Y社は、本件有期労働契約を締結するにあたり、Xに対し、月額の手取賃金を30万円以上とする、本件有期労働契約締結後から半年ないし1年後には正社員とするとの期待を抱かせたにもかかわらず、現在まで、Xとの間で、月額の手取賃金を30万円以上とすること及び正社員とするとの条件を付した労働契約を締結しないY社の対応は、Xの期待権を侵害する不法行為に当たると主張するが、上記事実関係に照らせば、Xの主観はともかく、Xの上記期待は、法的保護に値する期待と認めるには足りず、事実上の期待にすぎないというべきであるから、それに対する侵害が不法行為に当たるとのXの主張は採用することができない。
4 以上に対し、通勤手当についてのY社の労働条件の相違は、労働契約法20条に反し、同条の解釈上、同条に違反する労働条件の定めは、強行法規違反として無効と解され、かかる定めをしたY社の行為は、Xに対する不法行為を構成するというべきである。
そして、その損害額は、当該労働条件の相違がなかった場合にXが取得できた通勤手当の額とXに支給された通勤手当との差額であると解されるところ、XがY社の正社員であったとすれば、どの程度の通勤手当の支給を受けることができたかについては本件証拠上不明であるが、少なくとも正社員の最低支給額である5,000円と、Xの受給額である3,000円の差額である2,000円は被告の不法行為による損害と認めることができる。
したがって、労働契約法20条施行後の平成25年4月分から同年8月分までの差額合計
1万円(2,000円×5か月分)については、これをXが被った損害と認める。
原告労働者側はこれを不服として、二審(大阪高裁)に控訴する。
1 平成28年7月26日大阪高裁は、平成27年9月16日大津地裁で言い渡された1審判決を一部変更して、原告労働者Xの主張を一部認めて、被告会社Y社に77万円の支払いを命じる判決を下した。即ち、1審判決では通勤手当の差額10,000円のみの支払が命じられていたが、2審判決では労働者Xの主張を更に一部認めて、無事故手当、作業手当、給食手当についても有期契約労働者であることを理由とした不支給は、期間の定めがある事による不合理な労働条件の相違を禁じた労働契約法20条違反と認定して、Xに対する支払いを命じた。但し、正社員就業規則に基づく賃金差額や、家族手当、定期昇給、賞与、退職金の支払いは、正社員としての身分に基づくものであり、有期雇用の非正規社員であるXについても当然に支給されるものではないとして、その請求を退けている。
2 高裁判決においても労働契約法20条違反における「不合理と認められるもの」とは、契約社員と正社員の労働条件の相違が、それら労働者間の①職務内容 ②職務内容・配置の変更の範囲の異同 ③その他の事情を加えて考察して、当該企業の経営・人事制度上の施策として不合理なものと評価せざるを得ないものを意味すると解すべきとしている。特に③その他の事情として正社員は、企業の将来の発展を支える基幹的な役目を担う立場にあり、契約社員とは、会社が期待する役割において相違があるとされる。
3 労働契約法20条にいう「期間の定めがある事により」とは、契約社員と正社員間の労働条件の相違が「期間の定めの有無に関連して」生じたものである事を要する趣旨と解されるとしている。不合理性の解釈においても単に賃金総額の相違のみならず、次の通り支給される賃金項目(含む諸手当)の趣旨を個別に考慮すべきとしている。
①無事故手当
当該手当の支給は、正社員であると契約社員であるとを問わず、優良ドライバーの育成や安全輸送による顧客の信頼獲得と言う目的を有するものであり、正社員に対してのみ支給することは、「期間の定めがある事を理由とした不合理な差異」に該当し、労働契約法20条に違反する。
②作業手当
会社側は、作業手当を実質上基本給の一部であると主張しているが、同社の給与規定上、特殊業務に携わる者に業務内容に応じて支給すると明示している以上、正社員にのみ支給することは、「期間の定めがある事を理由とした不合理な差異」に該当し、労働契約法20条に違反する。
③給食手当
給食手当は、給与規定においてあくまでも給食の補助として支給するものであり、正社員と契約社員の職務内容等の相違には無関係であるところ、これを正社員にのみ支給することは、「期間の定めがある事を理由とした不合理な差異」に該当し、労働契約法20条
に違反する。
④通勤手当
通勤手当は、通勤のために要した交通費の全額または一部を補てんする性質のものであり、正社員と契約社員の職務内容等の相違には無関係であるところ、これを正社員にのみ支給することは、「期間の定めがある事を理由とした不合理な差異」に該当し、労働契約法20条に違反する。当該手当だけは1審大津地裁において、既に労働契約法20条違反が認定され、総額10,000円の支払い命令が下されている。
⑤住宅手当
正社員にのみ転居を伴う配転(転勤)が予定されており、配転が予定されない契約社員に比べて住宅コストの増大が見込まれることから、正社員への住宅費用の補助及び福利厚生を手厚くすることによって有能な人材の獲得・定着を図るという目的に照らして、正社員に対してのみ住宅手当を支給することは、「期間の定めがある事を理由とした不合理な差異」に該当せず、労働契約法20条に違反しない。
⑥皆勤手当
契約社員については、勤務成績は契約更新時の時間給の見直し(時間給の増額)が行われることが有り得ることから、正社員にのみ精勤に対するインセンティブを付与する目的で皆勤手当を支給することは、「期間の定めがある事を理由とした不合理な差異」に該当せず、労働契約法20条に違反しない。
⑦その他(正社員との賃金差額、家族手当、定期昇給、賞与、退職金)
正社員との賃金差額、家族手当、定期昇給、賞与、退職金については、正社員としての身分に基づき支給されるものであり、仮に被告たる会社の契約社員就業規則が労働契約法20条に違反するとしても、正社員には正社員就業規則が、契約社員には契約社員就業規則が適用されるのであり、労働契約法20条違反該当性について判断するまでもなく、契約社員は正社員と同一の(労働契約上の)権利を有する地位にある事の確認を求める事はできない、と判示している。
これに対し原告労働者側、被告たる会社側共に不服として、三審(最高裁)に上告した。
1)主位的請求における地位確認請求と差額賃金請求について
ア 原告の地位確認請求と差額賃金請求は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件
の相違が労働契約法20条に違反する場合、有期契約労働者の労働条件は無期契約労働者
の労働条件と同一のものとなるという解釈を前提としている。
イ 但し、労働契約法20条では、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違が同条
に違反する場合に、有期契約労働者の労働条件が無期契約労働者の労働条件と同一のものと
なる旨を定めてはいない。そうすると、両者の労働条件の相違が同条に違反する場合であっ
ても、同条の効力により有期契約労働者の労働条件が無期契約労働者の労働条件と同一のも
のとなるものではないと解するのが相当である。
また、正社員に適用される就業規則と契約社員に適用される就業規則とは、別個独立のも
のとして作成されている事に鑑みれば、両者の労働条件の相違が労働契約法20条に違反する
場合、正社員就業規則の定めが契約社員に適用される事となると解することは、就業規則の
合理的な解釈としても困難である。
ウ 以上により、原告の主位的請求の地位確認請求と差額賃金請求は共に理由がないものとし
て、その請求を棄却する。
2)予備的請求における損害賠償請求
ア 主位的請求における差額賃金請求が棄却されたことにより、不法行為責任(民709条)に
基づく、上記差額に相当する額の損害賠償請求及び遅延損害金の請求も棄却される。
イ 住宅手当の支給に関する損害賠償請求
上告人においては正社員に対してのみ所定の住宅手当が支給されているが、正社員には転
居を伴う配転が予定されており、契約社員と比較してこれを支給しないという労働条件の相
違は、不合理であると評価することができるものとはいえないから、労働契約法20条にいう
不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当であるため、当該部分に関する原告
の損害賠償請求は棄却する。当該論旨は、高裁判決で述べている通り、正社員は出向を含む
全国規模の広域異動の可能性が有るほか、等級役職制度における格付けを通じて、将来、会
社の中核を担う人材として登用される可能性が有るのに対し、契約社員は就業場所の変更や
出向は予定されておらず、そのような人材として登用されることが予定されていないからと
言える。
ウ 皆勤手当の支給について
上告人においては、正社員である乗務員に対してのみ所定の皆勤手当てを支給している
が、上告人が運送業務を円滑に進めるには実際に出勤するトラック運転手を一定数確保する
必要がある事から、皆勤を奨励する趣旨で支給されるものであり、契約社員と正社員の職務
内容によって両者に差異が生じるものではない。従って、上告人の乗務員の内、正社員に対
してのみ皆勤手当てを支給して、契約社員にこれを支給しないという労働条件の相違は、労
働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。
3) 最高裁判決後の諸手当等支給状況
①一審判決で支給命令が出されたもの
・通勤手当…10,000円の差額支給命令(@2,000円X5ヶ月)
②二審判決で支給命令が出されたもの
・無事故手当(月額10,000円)
・作業手当(月額10,000円
・給食手当(月額3,500円)
・通勤手当(月額5,000円)…上記の通り一審で、差額支給命令が出されている
③最高裁で支給命令が出されたもの
・皆勤手当(月額10,000円)
※二審までの上記①と②の赤字部分全ての支給命令を認容
④最高裁後も変更なし
・賃金差額
・定期昇給
・住宅手当
・家族手当
・賞与
・退職金
ハマキョウレックス事件と長澤運輸事件とは、共に労働契約法20条違反を問う事件ではありますが、その内容はかなり異なると言えます。
1)長澤運輸事件の場合には、定年退職後の嘱託社員の定年年齢が60歳から65歳に延長されるま
での期間に限定された過渡的な問題であり、定年年齢が法令上及び労働慣行上も、65歳に引上
げられれば自ずと解消される問題であると言えます。即ち、65歳に達すれば、老齢年金が支給
され、差別的な労働条件で雇用を継続する必然性が薄れるからと言える。
これに対してハマキョウレックス事件の場合には、非正規雇用労働者全般に対する労働条件
の格差がもたらす様々な社会的ひずみが表面に現れた事件であり、非正規雇用労働者である限
り一生涯付きまとう大きな問題と言えます
当該事件における原告労働者は平成20年10月入社以来、平成30年6月最高裁の判決が下され
るまでの約10年間に亘り、半年ごとの有期労働契約の更新を行ってきました。この間遂行する
業務内容には何ら相違がないにもかかわらず、定期昇給もなく、無事故手当、作業手当、給食
手当、住宅手当、皆勤手当、通勤手当、家族手当、賞与、退職金、等の正規社員に支給されて
いる手当のほとんどが支給されておりませんでした。察するに、正規社員との生涯収入の格差
は倍以上に達するものと思われます。このような格差は当該会社に勤務を継続する限り未来永
劫に生じるものであり、正に労働契約法20条が禁じている労働契約期間の定めがあることによ
り生じた格差以外の何物でもなかったといえます。
両事件共に「同一労働同一賃金」に関する格差を問う事件ではありますが、ハマキョウレッ
クス事件の方がより「同一労働同一賃金」の理念に照らした格差のもたらす社会的な歪が大き
く、これからの日本において本腰を入れて改善が問われる案件であったと言えます。即ち、当
該ハマキョウレックス事件こそが、労働契約法20条において期間の定めがあることによる不合
理な労働条件の格差を禁じる基本的な考え方が該当する、典型的な事案であったといえます。
最近の総務省の統計によると、日本の労働者総数に占める非正規雇用労働者の割合が40%近
くにも達しているとのことですが、決して他人事とは言えません。嘗ては噂話で、周りに派遣
やパートで働いている人もいるようだと言った程度の認識でしかなかったでしょうが、今では
周りを見渡してみれば最早どの地域、どの家庭でも当たり前に目にする光景となってしまった
と言えます。しかもその労働条件の格差が決して看過できないほどの大きな社会的ひずみを生
み出している事を忘れてはいけません。
正にこれから日本においても遅まきながら、本腰を入れて対処することが求められる重大案
件と言えます。もう既に現実の問題となっている少子高齢化及び労働力の不足等の問題を解決
するには、決して避けて通る事の出来ない大きな社会問題と言えます。
2)日本が長い低成長期に移行した1991年以降においては、それまで日本型雇用の3大特徴と言
われていた「終身雇用、年功序列、企業内労組」と言った労働慣行が消滅しつつあることがあ
げられます。又、この数年働き方改革に関連して、日本においても遅まきながら「同一労働同
一賃金」の考え方が台頭してきたために、「正規社員」と「非正規社員」の格差の大きさが社
会的に注目を浴びるようになってきております。その手掛かりとなったのが平成25年4月1日施
行改正で導入された労働契約法20条であったと言えます。
今回の労働契約法20条裁判を通して、「正規社員」と「非正規社員」の処遇(特に賃金体
系)は異なるとする従来の考え方が、かなり揺らいできていると言えます。今後の動向を大い
なる注意を持って見守ってゆきたいと思います。
尚、令和2年4月1日以降、従来の「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(俗に
言われるパートタイム労働法)は、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に
関する法律」に名称を変更のうえ、労働契約法20条は、「短時間労働者及び有期雇用労働者の
雇用管理の改善等に関する法律」第8条に吸収・統合されております。
(ハマキョウレックス事件資料)
会社概要(2018年3月末現在)
会社名 | 株式会社ハマキョウレックス |
英訳名 | HAMAKYOREX CO., LTD. |
代表者の役職氏名 | 代表取締役会長(CEO) 大須賀 正孝 代表取締役社長(COO) 大須賀 秀徳 |
本社所在地 | 静岡県浜松市南区寺脇町1701番地の1 |
電話 | 053-444-0055 |
設立 | 1971年2月 |
資本金 | 65億47百万円(2018年3月末現在) |
従業員 | 【単体】 社員 795名、臨時雇用者 4,977名(2018年3月末現在) |
営業収益 | 【単体】 395億99百万円(2018年3月期) |
事業内容
物流センター事業・・・96% 一般貨物運送事業・・・4% |
正社員と嘱託社員との賃金等の処遇の比較
(金額は月額支給額)
| 正社員(無期雇用契約) | 嘱託社員(半年毎の更新) |
適用規定等 | 正社員就業規則 | 嘱託社員就業規則 |
定年年齢 | 不明 | 不明 |
基本給 | 「正社員給与規定」に従い、年齢給、勤続給及び職能給で構成 | 時間給-時給1,150円 |
定期昇給 | 原則有り | 無し |
①無事故手当 | 該当者には10,000円(1月間無事故者) | 無し⇒10,000円支給(正社員と同) |
②作業手当 | 作業により10,000円~20,000円支給 | 無し⇒10,000円支給(正社員と同) |
③給食手当 | 3,500円 | 無し⇒3,500円支給(正社員と同) |
④住宅手当 | 21歳以下-5,000円、22歳以上-20,000円 | 無し |
⑤皆勤手当 | 該当者に10,000円(全労働日出勤者) | 無し➡10,000円支給(正社員と同) |
⑥通勤手当 | 5,000円(原告と同基準の場合) | 3,000円、但し、平成25年9月からは正規の5,000円を支給 |
⑦家族手当 | 有り(詳細未定) | 無し |
賞与 | 原則有り(詳細未定) | 無し |
退職金 | 勤続5年以上の者に支給 | 無し |
(注)⇒高裁判決で支給命令が出されたもの。➡最高裁で支給命令が出されたもの。赤字の「無し」は、最高裁においても支給命令が出されていないもの
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