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同一(価値)労働同一賃金について

雇用形態の相違による不合理な労働条件の解消を目指して

同一(価値)労働同一賃金について

1.同一(価値)労働同一賃金とは

 本来、「同一労働同一賃金」( 英語表記ではequal pay for equal workとは、 同一の仕事(職種)に従事する労働者には、同一水準の賃金が支払われるべきだとする概念です。これに対して「同一価値労働同一賃金」(英語表記ではequal pay for work of equal value) とは、職種が異なる場合であっても労働の質が同等であれば、同一水準の賃金が支払われるべきとする考え方とされております。

 但し、「同一価値労働同一賃金」の考え方は今日においては、「同一労働同一賃金」の概念に組み込まれているというのが常識となってきております。一般的には(少なくとも日本においては)両者はほぼ同じ概念と考えられており、仕事(職種)のみならず性別、雇用形態(フルタイム、パートタイム、派遣社員等)、人種、宗教、国籍などに関係なく、労働の種類(質)と量に基づいて賃金が支払われるべきとする考え方です。

2.同一(価値)労働同一賃金の考え方の発端

 1914年から1918年まで第1次世界大戦があり、敗戦国である対ドイツ講和条約として19196月パリ講和会議が開催されました。当該会議は、その開催場所であるヴェルサイユ宮殿にちなんでヴェルサイユ条約と呼ばれております。この条約第13編第2款第4277項において欧米列強は、「同一価値の労働に対しては男女同額の報酬を受けるべき原則」(英文では“The principle that men and women should receive equal remuneration for work of equal value”)を提起しております。第1次世界大戦中は男性労働者不足のため、女性労働者がそれまで男性の仕事とされていた製造業の工場労働やバスの運転手等の肉体的な労働にも従事し始めたころです。

 特に第1次世界大戦前は欧米先進国と言えども、女性は家庭内の仕事か、軽度の男性の補助的な仕事に従事するのが一般的でした。イギリスにおいては、第1次世界大戦がはじまる前は、女性の賃金は男性の半分以下であったそうです。戦争終結時点ではかなり縮小しておりましたが、同じ仕事をしているにもかかわらず性別により賃金に格差がある事が次第に社会問題化されてきた時代です。

 この問題は、第2次世界大戦中のアメリカにおいてさらに大きな社会問題となりました。第2次世界大戦下のアメリカにおいては、男性労働者の戦地への出征により労働者数が不足する中、それまで働いたことの無かった多くのアメリカ人女性が軍需産業に従事した時代でした。 
 こうした状況下において「同一労働同一賃金」の考え方も次第に定着し、男女間の賃金格差も少しずつ解消されてゆきました。にもかかわらず、終戦時の1945年に製造業に従事していた全女性労働者の平均賃金は、男性の65%に留まったとの研究結果が発表されております。

3.日本の「同一労働同一賃金」法制化の動き

 日本は1947年(昭和22年)に労働基準法、職業安定法、雇用保険法(成立当初は失業保険法)を制定しました。その内、労働基準法3では(均等待遇)として、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取り扱いをすることを禁止しております。又、4においては、(男女同一賃金の原則)として、使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について男性と差別的取り扱いをしてはならないと規定しております。この3条と4条は「同一(価値)労働同一賃金」を規定した条文と言われております。

 1967年(昭和42年)ILOが日本に対して第100号条約「同一(価値)労働同一賃金」の批准を求めた時に、日本は「同一(価値)労働同一賃金」の考え方を受け入れることに同意したとされております。その時に当時の高橋展子労働省婦人局長は、「その趣旨は国内法においても既に規定されている。批准に伴って国内法を改める必要はない」と回答しております。日本は戦後間もなく(昭和22年)労働基準法を制定して、その条文中に「同一(価値)労働同一賃金」の考え方を盛り込んでおりますが、これは前述のヴェルサイユ条約の規定や欧米の労働慣行、特に男女同一賃金の動向をいち早く取り入れた結果とされております。

 但し、労働基準法第3条、4条に「同一(価値)労働同一賃金」の考え方をいち早く取り入れたのは良いが、未だその思想が現実のものとなるには程遠い現状です。労働基準法第3条、4条に定める理念が1日も早く労働慣行として定着することを期待したいと思います。因みに労働基準法第3条及び4条違反は、同法119条において、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金と定められております。

4.安倍内閣の同一価値労働への取組

 OECD2008年(平成20年)に「日本は若者が安定した仕事につけるよう、もっとやれることがある」と題した報告書の中で、「正規・非正規間の保護のギャップを埋めて、賃金や手当の格差を是正せよ。有期、パート、派遣労働者の雇用保護と社会保障適用を強化すると共に、正規雇用の雇用保護を緩和せよ」と勧告を行っております。2008年(平成20年)には非正規雇用労働者比率が34.1%に達しており、バブル崩壊後の1997年から始まった平成不況による第1回目の就職氷河期の影響が色濃く残っている年でした。

 このような諸外国からの勧告を受けて2016年(平成28年)、第3次安倍第1次改造内閣は「日本一億総活躍プラン」を閣議決定しております。この中で「同一労働同一賃金」の実現に向けて、日本の雇用慣行に十分留意しつつ、同年末までに「同一労働同一賃金」達成のためのガイドライン(指針)案を策定したいとしておりましたが、同年1220日に同指針案が公にされました。更にガイドラインの拘束力を担保するために、関係する労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法3法の改正案を平成29年通常国会に提出したいとしておりました。

5.労働契約法20条の類似規定

 ①労働契約法20労働契約期間に着目して、労働者を「期間の定めがあること」により、通常の労働者と差別してはならないと規定しております。

(労働契約法20条条文)
 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。 

(以上の要約)
 有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違は、両者の遂行する職務内容(業務内容及び責任の程度)、配置転換の範囲、及びその他の事情を考慮して、不合理なものであってはならない

パートタイム労働法9労働時間に着目して、次の通り労働者を「短時間労働者であるこ と」を以て、通常の労働者と差別してはならないと規定しております。
 「事業主は、職務の内容が当該事業所に雇用される通常の労働者と同一の短時間労働者(「職務内容同一短時間労働者」という)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるもの(「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」という)については、短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取り扱いをしてはならない」

派遣法30条の3派遣という特殊な就業形態に着目して、次の通り労働者を「派遣労働者で あること」を以て、通常の労働者と差別してはならないと規定しております。
 「派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する派遣先に雇用される労働者の賃金水準との均衡を考慮しつつ、当該派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の賃金水準又は当該派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力若しくは経験等を勘案し、当該派遣労働者の賃金を決定するように配慮しなければならない」。同2項においては、教育訓練及び福利厚生の実施その他円滑な派遣就業の確保のために必要な措置を講ずるように配慮しなければならないとしております。
 上記は何れも極めて類似した規定となっております。即ち、「同一(価値)労働同一賃金」の考え方がその根底にあると言えます。平成29年度においては上記3法の整理・改正が行われております

6.欧米の動向

1)過去の動向
 欧米、特にヨーロッパにおいては「同一(価値)労働同一賃金」の考え方はすでにかなり以前から実践されており、同一の労働を行っている正規労働者とパートタイマー等の非正規労働者の賃金格差が一定額以上あれば、法律違反として差額の支払いが求められております。当該格差がイギリスにおいては約7割、ドイツにおいては約8割、フランスにおいては約9割程度であるのに対して、日本においては5割をほんの少し上回る程度と到底無視できないほど大きな格差となっております。政府は平成28年12月に公表した「同一労働同一賃金」のガイドライン(指針)案を手始めに、正規労働者と非正規労働者の格差を是正して、1日も早い欧州並みレベルの実現を目指したいとしております。

2)最近のイギリスの事例
 2023年9月20日(水)日経新聞朝刊に次のような記事が掲載されております。要点のみ掲載させていただきます。

同一賃金軽視のツケ「英第2の都市バーミンガム『財政破綻』」

①人口114万人、年間予算30億ポンド(現在@184円換算で5,500億円)のロンドンに次ぐ英 
 国第2の都市バーミンガムが2023年9月5日に、約1,200億円を超える同一賃金債務の支払い
 に見合う財源がないため、同市議会は地方財政法に基づく事実上の破綻宣言を出した
②同市はかつて、ごみ収集や道路清掃の男性職員にボーナスを支給していたが、教育助手や給
 食、介護などの女性職員には支給していなかった。約5,000人の女性職員らが不当として訴
 訟を提起した結果、雇用裁判所は2010年4月に市に未払い賃金支払いを命じていた
③その後同市は当該未払い賃金約2,000億円を支払った現在も、未だに1,300億円の未払いが
 残されている。更に毎年約20億円の未払いが新たに発生し、財政規模5,500億円の同市財政
 では支えきれないと判断して、財政破綻を宣言するに至った
④英メディアは、地方財政法に基づく英国内の最初の破綻はハックニー、ノーサンプトンシャ
 ーに続き、最近では2022年にサロックの破綻とここ数年は毎年の様に発生している。今後
 も同様の事例は頻発すると報じている

 欧州のOECD先進国は比較的、同一価値労働同一賃金に対する実践面の先進国とされておりますが、上記の通りイギリスにおいては未だ非正規労働者に対する賃金は正規労働者の概ね7割程度と大きな格差が存在しており、今後も大きな問題が発生する余地が残されていると言えます。日本も当該事例を他山の石として同一労働同一賃金の理念に対する有効な対策を講じなければ、早晩同様の問題の発生が懸念されます。

7.その他…日本の一般会計予算と国債発行状況

1)令和5年度国家予算一般会計
 令和5年度の国家予算一般会計は、対前年比+6.8兆円(対前年比+6.3%)114.4兆円となっております。内社会保障関連の支出が36.9兆円(対前年比+1.7%)と全体の約3分の1を占め、これまでの最高額となっております。社会保障費の益々の増大により、日本の国家財政がやがて破たんするかもしれないと心配するのも、あながち事実無根の妄想とは言えません。更に対前年一般会計増加額6.8兆円の多くが防衛費及び防衛力強化費で占められており、合計で10.2兆円とこちらもこれまでの最大となっております。 来るべき本格的な少子高齢化社会の荒波に翻弄される前に、非正規雇用者も健康保険や厚生年金等に加入して社会保険料を負担して、将来に対する最小限の備えが出来るような所得レベルの達成が不可欠と言えます。
 現在の日本の非正規雇用者の生涯所得レベルは、正規雇用者の半分程度であり、健康保険や厚生年金への加入率は50%をほんの少し上回る程度となっております。これでは将来益々増加が見込まれる国の社会保障費を賄うことは不可能であり、国家の歳入不足はこれまで以上に国債の発行に頼らざるを得ない事となります。
 厚生労働省の「就業形態調査」によると、日本の令和1年の非正規雇用者比率は全労働者の38.3%に達しております。令和2年以降はコロナウイルス禍の蔓延により飲食業等の非正規雇用者の減少により、一時的に非正規雇用者比率は安定しておりますが、このまま推移したのでは近い将来50%の大台を超える事も十分考えられます。

 NHK報道資料準拠)
 

 因みに令和5年度の国家予算一般会計114.4兆円の内、歳入不足の35.6兆円(国家予算の31%)が新たな国債の発行で賄われております。その金額の全てが国家の財政支出として生かされるのであればまだしも、その約25.3兆円(国債新規発行額の71%) が過去に発行された国債の元利の償還(国債費)に消えてしまうという事です。何のことは無い、借金の返済のために借金を繰り返しているようなものです。

 足元の国債の単年度の発行ペースは、コロナウイルス禍の鎮静化により若干減少傾向であるとはいえ、発行残高は年々増加しております。今年度末の国債の発行残高合計は約1,068兆円と、令和5年度の一般会計114.4兆円のほぼ10年分にも相当します。現在の日本の総人口で割ると、生まれて間もないまだ目も見えない赤ん坊も含めて、1人当たり900万円弱の膨大な金額に達します。
 人口は毎年減少してゆき、国債残高は毎年着実に増加してゆけば、近い将来に日本国民1人当たりの国債発行残高が1,000万円の大台を超過するのは火を見るよりも明らかと言えます。現に日本の合計特殊出生率は毎年低下しており、令和3年度は1.30とこれまでの最低となっております。近い将来には1.0を切ることが懸念されております。
 これまでもそうだったように、今後もこの借金は益々増加してゆき、次世代・次々世代に対する負の遺産として、その両肩に重くのしかかってゆくこととなります。もうそろそろ国家財政の歳入不足を、国債の発行で穴埋めする常套手段を見直すべき時に来ていると言えます。

 

2)主要国債務残高のGDP



 3)日本の国債残高の推移

 国の借金である国債の発行残高は、1989(平成元年)年度末の時点では160兆円でした。それが2021年度末には991兆円、2022年度末には1,043兆円と初めて1,000兆円を超えております。2023年度末には1,068兆円に達する見通しです。

 4)日本の新規国債発行額の推移

 新規国債の発行額は、1989年度は約6.6兆円でしたが、2009(平成21)年度に50兆円を超え、コロナ禍に見舞われた2020年度には初めて100兆円を突破しました。
                                        以上

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