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非正規労働者はなぜ増加したの?

非正規雇用労働者増加の現状と原因、今後の動向について

非正規雇用労働者はなぜ増加したの?

1.非正規雇用労働者増加の現状

1)初めに
 平成27114日付、日経電子版に記載された厚生労働省が発表した「雇用の構造に関する実態調査-平成26年実績」では正規雇用者比率は59.5%、非正規雇用の割合は男女合計で
40.5%、女性だけでは68%にも達しております。最近の非正規雇用労働者数を男女で比較すると、女性は男性の約2.2倍で、その63%がパート・アルバイトとなっております。労働者が非正規社員を選択した理由は、「自分の都合のよい時間に働けるから」という回答が4割近くに達しております。雇用環境の改善で、不本意ながら非正規社員を選んだという回答は前回調査に比較して4.4%低下して18.1%となっております。会社側が非正規社員を活用する理由は「賃金の節約のため」が38.8%で最も多く、「正社員を確保できないため」との回答が26.1%と前回調査に比較して8.3%増えております。一部には人材確保が難しくなっているとも言われており、足元の労働市場の若干のタイト感を反映して、有効求人倍率が23年ぶりの高水準となっております。

 この傾向は当面、益々顕著となってゆくものと思われます。近い将来には、仮に一家4人全員が生産年齢人口とした場合、一家の主たるご主人と長男は辛うじて正規社員であったとしても、奥様は近くのコンビニで短時間のパート、長女は有期の登録型派遣労働者として勤務するのが典型的な労働者家庭となる事が見込まれます。嘗ては、派遣等の非正規雇用労働者の存在は、周りを見回せば、そういう人もいるようだといった程度の認識でしかなかったと思います。ところが今後はどの地域でも、どの家庭でも当たり前に目にするありふれた光景になるものと思われます。即ち、家族の半分が非正規雇用労働者の時代がすぐそこまで来ていると言えます。 

 厚生労働省が平成28年(2016年)218日に発表した「平成27年賃金構造基本統計調査(全国)結果の概況」及び総務省「平成27年度労働力調査」を元に、以下非正規雇用労働者に関する労働環境の推移について、検証してみたいと思います


2)正規・非正規雇用労働者数の推移

①非正規雇用者に関する総務省の統計は、昭和59年から登場している。それ以来総労働者数は、若干の右肩上がりとなっているが、内訳的には正規労働者が減少して、非正規労働者が絶対数及び比率共に一貫して上昇している。厚生労働省の平成26年の統計では、非正規雇用者割合は実に40.5%に達している。

②非正規雇用者数が一番多いのはパート、次がアルバイトで両者を合計すると1,366万人、総労働者数の26%を占めている。パートは、子育て期以降の家庭の主婦が中心となっている。派遣社員は126万人、全労働者数の2.4%となっている。

3)雇用形態別・性別平均賃金

4)雇用形態別社会保険等への加入状況(平成27年実績)他

①健康保険と厚生年金の正規雇用者の加入率は共にほぼ100%になっているのに対して、非正規雇用者は共に50%を若干上回る程度に留まっている。平成28年現在の健康保険と厚生年金の労働者と事業主の保険料率の合計は、約30%(労働者と事業主が各々1/2づつを負担)とかなり負担が大きく、事業主及び非正規労働者共に加入に消極的であることが見て取れる。

②雇用保険における非正規雇用者の加入率は約70%となっており、健康保険と厚生年金への非正規雇用者の加入率に比較すると、高率となっている。その理由としては、雇用保険料率が極めて低い(通常の事業総計で1.1%、労働者負担は0.4%)ので、事業主及び非正規雇用者共に加入することが大きな負担とならないことと、非正規雇用者は雇用が不安定であるために雇用保険に加入する必要性が高い事があげられる。

③賞与の非正規雇用者への支給率は31%となっているが、正規雇用者に対する賞与支給額は年間給与数か月分であるのに対して、非正規雇用者に対する賞与は年間1月にも満たない場合が多く、月額給与と共に正規労働者と非正規労働者の収入総額に大きな格差を生み出す大きな要因となっている。

④退職金についても、非正規雇用者の10%弱に支給されてはいるが、正規雇用者に対する支給額は長期に亘る勤続年数と勤務評定に応じて年収の数年分の高額に達するのに対して、非正規雇用者に対しては主として勤務期間が短い事により、1月分にも満たない支給額が多くなっている。給料や賞与同様、非正規雇用者の総収入が正規雇用者に対して低額となっていることの大きな要因の1つとなっている。

⑤失業率は、平成14年当時の5%超の高レベルから、平成28年10月~11月は共に3%とかなり低い水準に低下してきている。有効求人倍率も同年11月は1.41とかなり改善している。

⑥非正規雇用者比率は当該統計が始まって以来、一貫して上昇し続けている。厚生労働省の平成26年就業形態調査によると、遂に40%の大台に到達している。失業率が上昇し続けていた平成14年度までは、非正規雇用者比率も同様に上昇傾向を示していた。それ以後は景気の若干の回復と共に失業率は低下したのに対して、非正規雇用者比率は一貫して上昇を続けている。一旦非正規雇用者比率を増やせば、例えその後雇用情勢が改善傾向を示しても、また元のレベルに正規雇用者比率を引上げることが困難であることが見て取れる。

2.非正規雇用労働者はなぜ増加したの?

1)日本円の対ドル為替レートの推移・・・円/1ドル
①円相場の推移概略
 ・1871年(明治4年)     1円※
 ・1945年9月             15円
 ・1947年7月             50円
 ・1948年7月               270円
 ・1949年~1971年   360円
 ・1971年12月      308円
 ・1973年2月~         変動相場制に移行
 ・1973年12月          ニクソンショックにより200円代に突入
 ・1985年9月            プラザ合意により100円代前半に突入

※米国との間の初めての為替レートは1円でスタートしたが、以後緩やかに4円程度まで円安となり、1941年太平洋戦争突入で為替レートは消失した。19459月終戦後、初めての為替レートは1ドル15円程度で開始した。   

②円相場の長期推移グラフ

2)日本の景気変動の推移、トピック
①日本の経済成長率(実質GDP)の推移 

(経済成長期)
戦後復興期:1945年~1955(11年間)
高度成長期:1956年~1973(18年間)
安定成長期:1974年~1990(17年間)
低成長期 :1991年~2016(26年間)

(就職戦線)
就職氷河期Ⅰ:1993年~2005年のバブル崩壊後の新卒者就職困難期
就職氷河期Ⅱ:2010年~2013年のリーマンショック後の新卒者の就職困難期 

②経済トピック、他

 

     経済トピック、他

非正規雇用者比率()

19501953

朝鮮戦争による戦後特需景気

 

19551957

神武景気(31か月)56年経済白書に「もはや戦後ではない」登場

 

1958

鍋底景気

 

19581961

岩戸景気(42か月)、池田内閣の所得倍増計画、3種の神器

(白黒TV、洗濯機、冷蔵庫)

 

1964

東京オリンピック景気(24か月)、海外旅行解禁

 

19651970

いざなぎ景気(57か月)3C時代(カー、クーラー、カラーTV)

 

1971

ニクソンショック

 

1972

田中角栄「日本列島改造論」出版

 

19732

変動相場制に移行

 

197310

第一次オイルショック、原油価格4倍に

 

1978

カーターショック、ガルブレイス「不確実性の時代」発刊

 

1979

第二次オイルショック、原油価格2.4倍に

エズラ・ボーゲル「Japan as NO.1」出版

 

1985

プラザ合意、円高不況、対外純資産世界一

(84)15.3

19861990

平成景気 バブル景気(51か月)

 

1989

日経平均3.9万、三菱地所ロックフェラーセンター買収(95年撤退)

19.1

19911993

バブル崩壊

20.3

1997

平成不況

24.9

2008

USAリーマンブラザーズ社破綻

34.1

20102013

リーマンショックによる不況

34.436.7

③労働関連法の制定

労働関連法

施行年度、最新改正

職業安定法

1947(昭和22)

労働基準法

同上、2015年(平成27年)改正

雇用保険法

1947年(昭和22年)失業保険法として成立、

1975(昭和50)雇用保険法となる

高齢者雇用安定法

1971(昭和46)2013年改正

労働安全衛生法

1972(昭和47)労基法から分離

男女雇用機会均等法

1986(昭和61)20007年改正

労働者派遣法

1986(昭和61)2015年改正

パートタイム労働法

1993(平成5)2008年改正

労働契約法

2007(平成19)2013(平成25)改正


3非正規雇用労働者の発生と増加
①戦後の高度経済成長期(1956~1973)
 戦後の高度経済成長期において、日本企業は常に人手不足で、労働者を囲い込む形で正規雇用が常態化していた。それを補う形で農閑期に農村地帯からの出稼ぎ労働者や主婦のパートタイム労働者、及び学生アルバイトを非正規雇用労働者として雇用する形が定着した。    
 少なくとも戦後1970年のいざなぎ景気の頃の「集団就職」や「中学卒業生は金の卵」ともてはやされた時代までは、積極的な非正規雇用労働者の生ずる余地はなかったと言える。従って、この時代の非正規雇用労働者は、正規雇用労働者の不足を補うための調整弁的な役割を担っていたものと言える。
 日本は1950年からの朝鮮戦争による特需を、第二次世界大戦における敗戦、そしてその後の崩壊した経済から脱出するためのスプリング・ボードとして経済成長のスタートを切ったと言える。為替相場も第二次世界大戦後の360円の固定相場制のお陰で、輸出産業を中心に日本経済は大いに成長した時代であった。諸外国において日本製品は未だ、「安かろう、悪かろう」の評価しかなかったが、労務費が安いことによる低廉な商品は、大いに諸外国、特にアメリカにおいて受け入れられた。足元20年程は中国が「世界の工場」として、大きな存在感を誇ってきたが、それまでの日本にとって代わったともいえる。 

②安定成長期(1974年~1990)
 19732月に為替相場が変動相場制に移行した事により1ドル200円台中盤に突入した。同年10月に第一次オイルショックが発生原油価格が一挙にそれまでの4になった。これにより、日本経済はそれまでの高度成長期から安定成長期に移行した。1979年には第二次オイルショックがあり原油価格がそれまでの2.4になり政府主導による省エネ・省資源が叫ばれ、民間企業は減量経営に全力を挙げるようになった。コスト削減のための非正規雇用労働者の導入はこの頃から発生しているとみる事が出来る。
 そして1985年のプラザ合意後は、更に1ドル100円台に突入している。急激な円高の進行により日本の輸出産業は大きな痛手を受けた。1971年のニクソンショック前の固定相場制の時代の主役であった鉄鋼、船舶、大型機械、化学工業等の「重厚長大産業」から、知識・サービス(ソフトウエア)、情報・通信・半導体(マイクロエレクトロニクス)等の「軽薄短小産業」への転換が起こった。
 上記の戦後の高度経済成長期においては、輸出産業による外貨の獲得だけが、日本経済の成長を支えていた時代であった。この時代においては、産業構造が漸く1次産業から第2次産業へ、そして第3次産業へと大きく変化し始めた時代であった。

③低成長期(1991年~)
 1991
年のバブル崩壊後の日本経済は低成長期に移行し、減量経営の一環としてゼロベース予算等に基づく経費の削減、正規従業員を削減して非正規従業員を増加させることによる労務費の圧縮、赤字部門の切り捨て等が行われた。多くの日本企業はそれまでの日本企業の強さの源泉であり、日本的経営の特徴と言われていた「年功序列制度」と「終身雇用制度」をこの時期に放棄し、その代わりに、正規社員を減らしていつでも解雇できる非正規社員を増やしたと言える。

④非正規雇用者比率の推移
 総務省統計局の「労働力調査」は、19469月から開始されているが、非正規雇用労働者に関する統計数値が登場したのは1984(昭和59)からである。従って、それ以前には当該統計数値は存在しない。しかし一般的には、1973年の第1次オイルショック、1979年の第2次オイルショック頃から労働者に占める非正規雇用者数及び比率共に少しずつ増加し始めたと言われてている。
 1984年の初めての同比率は15.3%1990年には20%1995年には25%2003年には30%、世界金融危機後の2011年には35%を超え、2015年には37.5%に達している。当該統計が開始された最初の20年間では、概ね5年毎に5%づつ上昇してきたことが見て取れる。厚生労働省が発表した「雇用の構造に関する実態調査-平成26年実績」では非正規雇用労働者の割合は男女合計で40.5%、女性だけでは68%にも達している。 

⑤今後の方向性について
 正規雇用労働者を解雇して非正規雇用労働者を増やすやり方は、一時的にはコストの削減に寄与し企業業績の改善になるかもしれないが、企業の長期的発展を支えるために必要不可欠な人材の育成や、技術の伝承等の面で大きな問題のある事が、近年指摘されている。嘗ての高度成長期やバブル期の余分なぜい肉を落とすだけの減量であればまだよかったが、最近では企業の長期的な成長を支えるために必要不可欠な活力源となる筋肉さえも削ってしまったのではないかと危惧されている。
 少なくとも、非正規雇用労働者が全労働者の過半数を占めるようになったのでは、かつて高度成長期に日本経済の成長と発展を支えた製造業の力の源泉であった高度の技術力の保持・涵養は不可能と言える。言うまでも無く日本は天然資源の乏しい国である。シンガポールの例を引き合いに出すまでも無く、我国が国際競争に打ち勝ち、国家を存続・発展させていくためには、唯一人的資源の確保こそが重要と言える。リストラ、合理化、コストダウンと称して、正規労働者を減らしてむやみに非正規労働者を増やしてきたが、もうそろそろこのような行き過ぎた非正規雇用労働者増加の流れを見直す時期に来ていると言えるのではなかろうか。 

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佐野 正治

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