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長澤運輸事件最高裁判決が出ました

一審労働者側勝訴、二審会社側勝訴、最高裁でも会社側主張がほぼ認められた

長澤運輸事件最高裁判決が出ました

1.最高裁でも、二審勝訴の会社側主張がほぼ認められた

             最高裁に入廷する                 原告側労働者及び弁護団 

長澤運輸事件「平成29年(受)第442
地位確認等請求事件」

平成3061日 最高裁第二小法廷判決 裁判長:山本庸幸、裁判官:鬼丸かおる、菅野博之、三浦守

判決言渡し:14時30分からのハマキョウレックス事件の判決言渡しに引続き、同場所において1600分より判決言渡しが行われた(同一裁判長及び同一裁判官による判決)

(高裁判決までのあらまし)
朝日新聞デジタル長澤運輸事件

定年後再雇用、賃下げは「適法」 控訴審で原告が逆転敗訴
平成28年1130150

 (60歳の)定年後に再雇用されたトラック運転手の男性3人が、定年前と同じ業務なのに賃金を下げられたのは違法だとして、定年前と同じ賃金を支払うよう勤務先の運送会社「長澤運輸」(横浜市)に求めた訴訟の控訴審判決が2日、東京高裁であった。杉原則彦裁判長は、「定年後に賃金が引き下げられることは社会的に受け入れられており、一定の合理性がある」と判断。運転手側の訴えを認めた一審・東京地裁判決を取り消し、請求を棄却した。

 平成28年5月の一審判決は、「業務の内容や責任が同じなのに賃金を下げるのは、労働契約法20条に反する」として、定年前の賃金規定を適用して差額分を払うよう会社に命じた。

 しかし高裁判決は、再雇用者の賃金減額について「社会的にも容認されている」と指摘。60歳以上の高齢者の雇用確保が企業に義務づけられている中で、同社が賃金節約などのために、定年後の労働者と賃金を減額して契約を結んだことは、「不合理とは言えない」と理解を示した。
 また、同社が再雇用の労働者に「調整給」を支払うなど正社員との賃金差を縮める努力をしたことや、
退職金を支払っていること、同社の運輸業の収支が赤字になったとみられることなども考慮。原告の賃金が定年前と比べて約20~24%下がったことは、同規模の企業が減額した割合の平均と比べても低いことから、「定年前後の契約内容の違いは不合理とは言えず、労働契約20条に違反しない」と結論づけた。

 判決を受け、原告代理人の宮里邦雄弁護士は「納得しがたく、速やかに上告の手続きをする」と述べた。長澤運輸は「会社の主張が正当に認められたものと理解しています」とコメントした。(塩入彩)

(長澤運輸事件における当事者間の法律関係)

当事者

一審(東京地裁)

二審(東京高裁)

三審(最高裁)

労働者側

〇原告

X被控訴人

X上告人

会社側

X被告

〇控訴人

〇被上告人

 〇印-勝訴 X印-敗訴

 (訴訟の経緯)
  平成2610月及び12月 労働者側東京地裁へ提訴
  平成282月      結審
  平成28513日     第1審東京地裁判決(全部認容)
  平成28516日     会社側控訴
  平成28112日     第2審東京高裁判決(1審判決を棄却)
  平成28119日     労働者側上告及び上告受理申立
  平成3037日       上告受理決定
  平成30年4月20日           労働者側上告弁論(最高裁)
  平成30年61日             第3審最高裁判決

1.最高裁の判決要旨
 各種手当の内、精勤手当と同遅延損害金の支払、及び精勤手当を超過勤務手当算定基礎
含めていなかった点について労働契約法20条違反を認定し、その支払いを求めた。それ以外の労働者側の上告を棄却した。即ち、下記労働者側の主位的な請求の全てを棄却し予備的な請求中、精勤手当と同遅延損害金の支払を命じると共に、精勤手当を含んだ超過勤務手当の算定につき更なる審理を尽くすため、原審(東京高裁)に差し戻した。

2.長澤運輸事件の審における原告労働者の請求
 60歳未満の正社員と60歳定年後の有期契約労働者間には労働契約法20条に定める労働条
(具体的には賃金)の相違があるとして、第一審、東京地裁に次の支払いを求める裁判起した。
1主位的(第一次的)な請求
60歳定年後の有期契約労働者にも、60歳未満の正規社員に適用される就業規則等が適用され  
 る労働契約上の地位にある事の確認を求める(
労働契約上の地位確認請求)。
②民法415条「債務不履行による損害賠償責任」により、正規社員に適用される就業規則等に 
 従い支給されるべき賃金と、嘱託社員就業規則に従い
実際に支給された賃金との差額(
 労働者3人分合計
420万円の未払賃金の請求)及びこれに対する年6分の割合による遅延
 害金の支払い
を求める。

2)予備的(第二次的)な請求
(過失による)不法行為責任(民709条)に基づき、上記差額に相当する額の損害賠償金
これに対す
5の割合による遅延損害金の支払いを求める。
 上告人(原告労働者)らは本件訴訟において、次の諸点が嘱託乗務員と正社員との不合理労働条件の相違である旨を主張していた。そして、嘱託社員の賃金に関する労働条件が社員と同じであるとした場合、上記主位的な請求②に記載の通り、420万円が支払わべきと主張していた。
①嘱託乗務員には能率給及び職務給が支給されず、歩合給が支給される
②嘱託乗務員には精勤手当、住宅手当、家族手当及び役付手当が支給されない
③嘱託乗務員の時間外手当が正社員の超過勤務手当よりも低く計算される
④嘱託乗務員に対して賞与が支給されない

2.本事案で問題の労働契約法20条とは

 労働契約法は平成1912月成立の比較的新しい法律であるが、同法は平成2541日施行改正20条を新設して、「期間の定めがある事による不合理な労働条件の禁止」を求める新しいルールを定めた。上記最高裁判決は、同条新設後はじめての、正社員と有期契約労働者や定年後再雇用者との間の不合理な労働条件の格差に対する判断を示す画期的な判決となった。

(労働契約法20条条文)
 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。 

(以上の要約)
 有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違は、
両者の遂行する職務内容(業務内容及び責任の程度)、配置転換の範囲、及びその他の事情を考慮して、不合理なものであってはならない

 即ち本事件に照らして言えば労働契約法20条では、定年後継続雇用者の賃金引き下げの合理性は、①職務内容とその責任の程度、②職務内容と配置の変更の範囲のみならず、③その他の事情も考慮して幅広く、総合的に判断することを求めている。

3.第一審(東京地裁判決)

1.判決要旨
①当該判決は、東京地裁民事第11部(佐々木宗啓裁判長)において平成28年5月13日に出され、60歳定年後の継続雇用嘱託社員の業務内容及び責任の程度が正社員当時と何変わっていないのに、賃金額が20%強減額されたのは労働契約法20条違反であるとして、労働者側の主位的な請求を認め、減額された賃金差額(原告労働者3人分合計約420万円)の支払いと、同金額に対する年5分の割合による遅延損害金の支払いを命じた。

②裁判長は、『労働契約法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは、「期間の
定めの有無に関連して」という趣旨であると解するのが相当である。正社員には正社員就
業規則及び賃金規定が、定年後継続雇用の嘱託社員には嘱託社員就業規則が一律に適用さ
れており、両者の間には賃金の定めについて、その地位の区別に基づく定形的な労働条件
の相違が認められるから、本件相違が期間の定めの有無に関連して生じたことは明らかである。よって
定年後継続雇用の嘱託社員には、労働契約法20条が適用される』と判示した。

(筆者コメント)
 これまでも労働契約法20条違反を争点とする裁判はいくつか提起されていたが、同条の新設は平成25年4月1日施行改正と比較的新しい事もあり、同条違反が認容され、その賃金差額の支払いを命ずる判決はこれまで存在しなかった。尚、当該事件が東京地裁に提訴されたのは、労働契約法20条が新設された1年半後の平成26年10月であった。

 裁判長は上述の通り、『「期間の定めがあることにより」とは、「期間の定めの有無関連して」という趣旨であると解するのが相当である』事を力説しておられるが、両者は同義反復であり、その内容には何ら差異はないと言える。労働契約法20条は、同法第四章「 期間の定めのある労働契約」の中に(期間の定めがある事による不合理な労働条件の禁止)として設けられたものであり、最初から「有期労働契約を締結している労働者」に限定して、期間の定めがあることをもって期間の定めのない労働者との不合理な差別を禁じた条文である。従って、年齢問わず有期契約労働者に等しく適用される条文であるため、裁判長が「定年後継続雇用の(有期契約)嘱託社員には、労働契約法20条が適用される」と判示した事は極めて当然のことであり、何ら疑問の余地はない。

 本事案において裁判長は、期間の定めの有る労働者には「嘱託社員就業規則」が適用さ、期間の定めの無い労働者には「正社員就業規則」が適用されており、この相違は両者間に期間の定めがあることによりもたらされたものであると述べておられる。但し、裁判において会社側は、期間の定めのない正社員に適用するために「正社員就業規則」を、期間の定めのある労働者には「嘱託社員就業規則」を定めていることは事実であるが、「正社員就業規則」と「嘱託社員就業規則」に定める労働条件の相違は、「期間の定めがあること」を理由として設けているわけではない。従って、労働契約法20条に違反しないとして、次の様に述べていることに注目する必要があると考える。

 『定年後の嘱託社員の労働条件(具体的には賃金)は、高齢者雇用安定法に基づく65歳までの
定年後継続雇用を達成することを目的に、正社員との間で労働条件に相違を設けているのであ
って、「期間の定めがあること」を理由として労働条件に相違を設けているわけではない。従
って、労働契約法20条に違反しない。嘱託社員には定年退職時に、所定の退職金も支給してい
る。また定年後の嘱託社員を、定年前と同一の労働条件で再雇用しなければならない法的義務
を負っているものではなく、再雇用時に一定割合で賃金を引き下げたとしても、当然に不当、
不合理とすべき理由はない

 要するに、当該労働契約法20条は、労働契約期間に着目して、労働者を「期間の定めが
あること」により、期間の定めのない通常の労働者と不当に差別してはならないことを求めた条文と解釈するのが、正しい理解と言えるのではないであろうか。この事は、数多くある類似の差別禁止規定に照らして考えてみても明らかと言えると思う。

①パートタイム労働法9条は、労働時間に着目して、通常の労働者と同視すべき短時間労働者
 を、「短時間労働者であること」を理由として、通常の労働者と差別してはならないと規定
 している。
②派遣法30条の3は、派遣という特殊な就業形態に着目して、労働者を「派遣労働者であるこ
 と」を理由として、通常の労働者と差別してはならないと規定している。
③労働基準法3条は、労働者の「国籍、信条、社会的身分」を理由として、賃金等の労働条件に
 差別的取り扱いをしてはいけないと規定している。
④労働基準法4条は、労働者が「女性であること」を理由として、賃金について男性と差別的取
 り扱いをしてはならないと規定している。
⑤男女雇用機会均等法5~6条は、労働者が「女性であること」を理由として、募集・採用及び
 その他の処遇に格差を設けてはならないと規定している。

2.格差の不合理性の判断基準
1)一審において裁判長は、正規社員と定年退職後の非正規社員の格差の不合理性の判断 
 基準として、労働契約法20条に規定する
①職務内容、②職務内容及び配置変更の範
 囲、③その他の事情のうち、①及
び②のみに着目して、③その他の事情をほとんど考慮
 していない。その結果、被告たる
会社側の労働契約法20条違反を認定している。
2)パートタイム労働法8条では(短時間労働者の待遇の原則)として、「短時間労働者
 と通
常の労働者の待遇を相違したものとする場合には、両者の職務内容、当該職務の内
 容及
び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであっては
 なら
ない」としている。又同法9条は、「通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対
 して
は、短時間労働者であることを理由として、賃金、教育訓練、福利厚生設その他(全て)の待遇について、差別的取扱いをしてはならない」と規定している。すなわち、
 不合理な差別を禁止している基本的な考え方は、労働契約法20条と同じといえる。


3)従って、本事件における労働者は有期契約労働者であるから、労働契約法20条を適
 することをもって足り、短時間労働者に適用されるパートタイム労働法9条を適用す
 余地はなかったと言える。因みに、控訴審(東京高裁)、上告審(最高裁)ではパート
 タイム労働法9条には全く言及していない。

3.一審判決の具体的な論拠
1) 定年後の再雇用者と正社員の①職務内容、②職務内容及び配置変更の範囲はほぼ同
 じ

2)定年後の再雇用者の賃金を、現役時代よりも引き下げる労働慣行は、労働現場に一般
 的に定着していない
3)引き下げる場合には、引き下げ幅の大小にかかわらず、格差を設ける特段の事情の存
 在が必要。本事案では特段の事情は存在しない

(上記論拠に対する筆者私見)
1)前述「格差の不合理性の判断基準」で述べたとおり、労働契約法20条とパートタイム
 労働法9条との条文のあてはめに混同があるように感ずるところである。但し、一審裁
 判官が当該パートタイム労働法9条を、単に類似の差別禁止規定について例示的に引き
 合いに出しているだけであれば、理解できるところではあるが。


2)平成2541日の改正高齢者雇用安定法施行後は、世間一般に賃金を3割程度引き下
 げて継続雇用している企業が増えており、この程度の賃金の引き下げは労働慣行として
 巷に定着しているといえる。因みに、独立行政法人労働政策研究・研修機構の平成26
 年調査によると、運輸業において定年退職後の継続雇用者で定年到達時と同じ仕事をし
 ている割合は88%、年間給与水準は退職前の約70%となっており、上記の推計を裏付
 ける結果となっている。

3)裁判長は判旨の中で、「労働者にとって重要な労働条件である賃金に相違を設けること   
 は、その相違の程度に係わらず、・・・・・不合理である。」としているが、この様に考え
 ることが妥当と言えるのか否か。即ち、巷の労働現場においては、賃金の格差が小さければ
 許容範囲であるから合理的であるとし、逆に賃金の格差が大きすぎれば許容範囲を超えると
 して不合理とする場合が多いのではないだろうか。

4)労働契約法20条違反であるからと言って、そのことが即、嘱託社員に適用される就業規則
 が無効とされ、自動的に正規社員の就業規則が適用されることとなるのか否か疑問が残る。
 即ち、嘱託社員にはそれまでの正規社員としての身分が一旦清算されて、定年退職後の嘱託
 社員に対する嘱託社員就業規則が適用されるからである。通常の就業規則は正規社員に適用
 され、嘱託社員就業規則は定年退職後の嘱託社員に適用されるのであり、両者はその適用対
 象が異なると言える。
  一審裁判長が論述しているように、定年退職後の嘱託社員の労働契約期間が有期であるか
 ら労働条件に格差を設けていると言うのであれば、それは正に労働契約法20条違反となるも
 のと言える。しかしながら当該相違は会社側が縷々申し述べているように、一方が有期契約
 労働者であり、他方が無期契約労働者であるからもたらされたものではない。
  察するに、労働契約法12条では、「就業規則違反の労働契約」として次のような規定を設
 けており、この類推適用かと思われる。労働基準法13条でも同様の規定が置かれている。こ
 の様な規定を、「部分無効自動引上げ」規定と呼ぶ。

※労働契約法12(就業規則違反の労働契約)
「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効と する。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」

5)裁判長は本事案において、労働者にとって重要な労働条件である賃金に(正規社員と
 定年退職後の嘱託社員間で)相違を設けることを正当と解する「特段の事情」が存在し
 なかったと結論付けているが、労働契約法20条の③その他の事情全く考慮しなかっ
 ため
に、そのような判旨に至ったのではなかろうか。

4.一審判決論旨
労働者側の主位的な請求を認容
①労働者側の地位確認請求を認容。有期契約社員にも正社員に適用される就業規則が適
 される

②正社員に適用される就業規則に準拠して計算された賃金との差額420万円の支払と、年
 5分の割合による同
遅延損害金の支払い請求を認容
 以上の第1審判決を不服として、会社側は控訴した。

4.第二審(東京高裁)判決

1.判決要旨
  二審判決は、東京高裁第12民事部(杉原則彦裁判長)において平成28112日に出
 さ
れ、一審判決とは異なり裁判長は、会社側に労働契約法20条違反の事実はないとして、
 一審・東京地裁の判決を取り消し、請求を棄却した。但し、労働契約法20条の解釈について
 は、「期間の定めがある事により」とは、「期間の定めの有無に関連して」と解すべきとし
 て、一審と同様の判断に立っている。

2.格差の不合理性の判断基準
  正規社員と定年退職後の非正規社員の格差の不合理性の判断基準は、一審同様労働契約法
 20条に照らして判断された。但し、一審とは異なり、①両者の職務内容、②職務内容及び配
 置変更の範囲のみならず、③その他の事情として、次の諸点を考慮した結果、労働契約法20
 条違反は認定されず、一審とは逆に会社側の勝訴となった。即ち、一審判決では、③その他
 の事情を全く加味しなかったために、会社側の労働契約法20条違反が認定されたのに対し、
 二審判決では、③その他の事情が加味されたために一審判決とは逆に、会社側の労働契約法
 20条違反は否認される事となった。

3.具体的な論拠…その他の事情の内容
(イ)定年後継続雇用者の賃金を定年前と比較してある程度減額することは社会一般に容
 認されており、不合理とは言えない(社会一般には30%程度減額されているのに、長
 澤運輸の場合20%程度である点に照らしても合理的な範囲と言える)

(ロ)高齢者雇用安定法の求めに応じた高齢者の雇用を確保すると共に若年層を含めた労
 働者全体の安定的雇用実現のためには、賃金コストの圧縮が必要であり、再雇用者の賃
 金を定年退職時より引き下げることが不合理とは言えない

(ハ)嘱託社員は高齢者雇用安定法の規定に基づく60歳定年後の継続再雇用の社員であ
 る事(退職時に退職金を受領済み)

(二)嘱託社員には職務給と能率給が支給されていないが、これを補正するために歩合給 
 が支給されている事

(ホ)嘱託社員が60歳到達後報酬比例の厚生年金を受給できるまで、月額2万円の調整給
 の支払いが行われている事

(へ)60歳到達後の再雇用時の賃金が、それ以前の平均賃金の75%未満に低下すれば、
 雇用保険法上の高年齢雇用継続給付の支給を受けられる制度がある事

(ト)会社側は、平成243月以降の労働組合との数次の団交において、賃金の見直し等
 の各種譲歩案の提示を行った事

(チ)本業の運送業が大幅赤字になっている事

筆者注…原告労働者の3名は、全員が昭和28年4月2日~昭和30年4月1日の出生であ
 る。定年退職後の60歳から61歳に達するまでの1年間について、3名共に当該調整金を
 各月2万円づつ受給し、61歳から65歳に達するまでは60歳代前半の特別支給の老齢厚
 生年金・報酬比例部分を受給したものと推定される。

3 結論
1労働者側の主位的な請求全てを棄却
①有期契約社員には嘱託社員就業規則が適用され、正社員に適用される就業規則は適用さ
 れない。従って、同地位確認請求は棄却
②(以上によって)正社員に適用される就業規則に準拠して計算された賃金との差額420
万円の支払と年5分の割合による同遅延損害金の支払い請求も棄却

2労働者側の予備的な請求も棄却
 予備的な請求もすべて棄却

 これに対して原告・労働者側は記者会見を開き、承服できないとして、即日最高裁に上告の手続きを取ることを表明した。

5.第三審(最高裁)判決

1.判決要旨
  最高裁判決は平成30年6月1日、第二小法廷(山本庸幸裁判長)にて出され、二審東京
  高裁の判決をほぼ踏襲したものとなった。労働契約法20条の解釈に関し、「期間の
  定めのある事により」とは「期間の定めの有無に関連して」と解すべきとして、一審
  及び二審と同じ解釈に立っている。「但し、原審(東京高裁)判決が、精勤手当と同
  遅延損害金の支払、及び精勤手当を超過勤務手当算定基礎に含めていなかった点につ
  いて労働契約法20条違反を認容し、その支払いを求めた。それ以外の原告労働者側
  の上告を棄却した。

2.格差の不合理性の判断基準
  正規社員と定年退職後の非正規社員の格差の不合理性の判断基準は、一審同様労働契約法
  20条に照らして判断され、ほぼ二審同様、会社側の勝訴となった。
 1)定年後の再雇用者と正社員の①職務内容、②職務内容及び配置変更の範囲はほぼ同
  じ、但し、③その他の事情として次の点を加味した結果、上記の一部を除き労働契約
  法20条の違反は認定されなかった

 2)③「その他の事情」の内容
  ①有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者である事は、当該有期契約労働者と
   無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断
   において、労働契約法20条にいう「
その他の事情」として考慮されることとなる
   事情に当たる

  ②
二審(東京高裁)の(イ)~(ト)の全てを「その他の事情」と認容

3.最高裁における新たな論点の提起
  不合理性の判断には、賃金総額の格差のみならず、各種手当支給の趣旨を個別に顧慮
 する事が重要

 1) 嘱託乗務員には能率給及び職務給が支給されていないが、補完的に歩合給が支給さ
  れているので、
不合理とは言えない

 2) 嘱託乗務員に精勤手当が支給されていないが、精勤手当の支給目的から言えば、嘱
  託乗務員にも支給されるべきで、
労働契約法20条に違反し不合理にあたる

 3) 嘱託乗務員に住宅手当及び家族手当が支給されていないが、これらが従業員の正社
  員としての身分に対する福利厚生及び生活保障の趣旨で支給されている事を考えれ
  ば、
不合理とは言えない

 4) 嘱託従業員に役付手当が支給されていないが、当該手当は正社員の中の一定の役職
  についている者に支給されるものである事を考えれば、不支給であっても
不合理とは
  言えない

 5) 嘱託乗務員の超過勤務手当の計算ベースに精勤手当が含まれなかったために、正社
  員との超過勤務手当の計算ベースに相違があったが、精勤手当をベースに含めること
  とすれば当該不合理は改善される

 6) 嘱託乗務員に賞与が支給されないが、定年退職後の再雇用であり、退職金も受領済
  みであり、会社側から調整給も支給されており、不合理とは言えない。賃金総額が正
  社員時の
80%程度であり、この点からも不合理とは言えない

4. 結論
1労働者側の主位的な請求全てを棄却
 高裁判決の通り

2労働者側の予備的な請求の一部認容
 高裁判決とは異なり、有期契約労働者に対する
精勤手当未払額に対する損害賠償及び年
 5分の割合による同遅延損害金についてのみ民法709条の不法行為責任を認め、その他
 の請求は棄却

3精勤手当を含んだ超勤手当の算定
 原審(東京高裁)の更なる審理を尽くすため差し戻す

(諸手当等支給命令)
①一審判決で支給命令が出されたもの
 ・労働者の主位的な請求(地位確認請求と賃金差額420万円の支払及び年6分の割合に
  よる遅延損害金の支払い)
  ※但し、二審ですべて棄却された

②二審で支給命令が出されたもの
  無し

③最高裁で支給命令が出されたもの
 ・精勤手当月額5,000円、3人合計で20万円)未払額に対する損害賠償及び年5分の
  割合による同遅延損害金の支払
  ※原審(東京高裁)の更なる審理を尽くすために差し戻す

④最高裁後も変更なし
 ・正社員との賃金差額

 ・定期昇給
 ・職務給及び能率給(但し、嘱託社員に差額補給的に歩合給を支給)
 ・
住宅手当
 ・家族手当
 ・役付手当

 ・賞与
 ・退職金(正社員としての退職金は受給済み)

6.遅延損害金利率について

 長澤運輸事件及びハマキョウレックス事件共に、原告労働者の要求及び裁判所の判決中に遅延損害金利率の記載がされております。特にハマキョウレックス事件の原告労働者の主位的な請求及び予備的な請求共に年5分(5%)の遅延損害金利率が適用されているのに対して、長澤運輸事件では主位的な請求が年6分(6%)、予備的な請求は年5分(5%)となっており、この違いは何なんだろうと不思議に思われた方がおられることと思います。

 本来両事件共に、商行為に基づく事件であるから、商法514条の規定に従い商事法定利率の6%が適用されてしかるべきと当方も思っておりましたが、実際はそのようになっていない事に対して不思議に思っておりました。当方の拙いホームページの両事件に関する記事に対して、「当該遅延損害金利率は6%で宜しいのでは?」との読者からの質問も数件寄せられており回答に窮しておりました。平成30年12月、年末に近いころ、社労士会内部におけるある講演会で、「長澤運輸事件及びハマキョウレックス事件の最高裁判決が出ました」と言うテーマで講師を務めた時に本件を全体的に見直しをして、前述の遅延損害金利率の違いが生じた理由を確認することが出来ました。以下その事由について報告させていただくことといたします。

 まず最初に知り合いの弁護士さんに本件の問合せをしたところ、理由は不明とのことでした。続いて某労働新聞社の編集者の方に問合せさせていただいたところ、これまた不明とのことで、当該試みは暗礁に乗り上げてしまいました。但し、その時に、長澤運輸事件の弁護を担当された東京合同法律事務所の宮里弁護士の事務所の電話番号を教えていただき、「直接問い合わせたらいかがか?」とのアドバイスに従い電話をさせていただきました。それによりこの数年間解けなかった謎に回答を見出すことが出来ました。先生からのご教示は概略次の通りでした。

(宮里先生から頂いたアドバイス概要)
①両事件は共に商行為に基づく事件であり。本来商法514条の規定に従い遅延損害金利率は6%を適用してしかるべきである。

②但し、昭和38年12月19日に最高裁小法廷で出された、「不法行為責任に基づく年5分の割合による遅延損害金を支払うべきこと」と題する判例により、不法行為責任を問う予備的な請求は年5分とすべきことが、以後確定された。

 従って、主位的な請求は長澤運輸事件で年6分として請求されている事が妥当であり、予備的な請求は上記判例に従い年5分となります。最高裁の判決は部分的に予備的な請求だけが認容されているので、上記判例に従い年5分の遅延損害金利率が適用されているようです。参考までに最高裁の当該判例を記載させていただきますので、ご参考にしていただきたいと思います。

不法行為責任に基づく遅延損害金に関する最高裁判例
(不法行為責任に基づく年5分の割合による遅延損害金を支払うべきこと)
事件番号:昭和37(オ)708
事件名:売掛代金請求
判例年月日: 昭和381219
法廷名:最高裁判所第一小法廷
裁判種別: 判決
結果: 棄却
判例集等巻・号・頁: 集民 第70389
原審裁判所名:名古屋高等裁判所
原審裁判年月日:昭和37330
判示事項:商人間の不法行為に基づく損害賠償債権の遅延損害金の法定利率。
裁判要旨: 商人間の不法行為に基づく損害賠償債権の遅延損害金の法定利率は、(民事法定利率の)年五分の割合であって、商法第五一四条(商事法定利率年六分)を類推適用すべきではない。

参照条文: 民法404条(民事法定利率)、民法709条(不法行為責任),商法514条(商事法定利率)

7.宮里弁護士の最高裁における口頭弁論

 平成30年6月1日の最高裁判決に先立ち、同年4月20日に東京共同法律事務所の宮里邦雄弁護士が本事件について最高裁口頭弁論を行っております。同弁護士は本事件において一貫して労働者側の意見を代弁してきており、「本裁判の意義」について次のように述べております。政府主導の元、「働き方改革」に関連して今後本格的な議論が始まると思われる「同一労働同一賃金」についての基本的な考え方、本格的な少子高齢化時代の到来に伴う日本の労使関係は今後どうあるべきかについて極めて示唆に富んだ内容となっておりますのでご紹介したいと思います。
(1)本件は、労働契約法20条の解釈適用に関して最高裁が口頭弁論を開く初めての事件であり、最高裁がどのような判断を示すかに大きな注目が集まっています。
有期、パート、派遣のいわゆる非正規労働者は、今や雇用労働者の約40%に達しています。パート、派遣もそのほとんどが有期労働契約であり、また本件の如く定年後再雇用にあってはすべて有期労働契約であります。
本件が関心を集めるのは、このように、有期契約労働者が大きな割合を占める雇用社会の現状下で、有期契約労働者と無期契約労働者の賃金・労働条件の格差はどこまで許されるかが問われているからにほかなりません。

(2)有期労働契約には無期労働契約と較べて二つの大きな構造的ともいうべき問題があります。ひとつは、雇止めという雇用上の問題、もうひとつは、賃金・労働条件の格差という問題であります。2012年の労働契約法改正によって設けられた労契法20条は、雇用形態の違いによる不公正な処遇が広く行われている実情をもはや放置できないとして、それを是正するために設けられた立法であります。原判決は、本件有期労働契約が定年後再雇用のそれであることを重視して、本件における賃金格差の不合理性を否定したものでありますが、その論旨の核心は、「定年後再雇用においては職務内容が同一であっても定年前と比較して賃金減額が一般的に広く行われ、社会的にも容認されている」ということにあります。
賃金格差が広く行われているという社会的事実は確かに存在します。しかし、だからといって「社会的に容認されている」というのは、誤りです。
雇用社会は労使によって構成されているものです。使用者は人権費コストを削減するために、格差を良しとして容認しているかもしれませんが、決して労働者が容認しているわけではないのであります。社会的容認論は、一方に偏した見解です。

中略)

(4)いまわが国においては労働力不足が問題となっており、60歳定年を迎えた後も、65歳まで、いや70歳まで働くことが当たり前の時代となりつつあります。
同一労働であっても、定年後の大幅な賃金切り下げを容認する原判決の考え方は定年後再雇用労働者の働く意欲、労働へのモチベーションを甚だしく弱めることにもなります。
労働契約法20条は2013年4月1日から施行され、5年が経過していますが、不合理な労働条件格差は今なお広く温存されています。多くの有期契約労働者、定年後有期契約労働者が最高裁判決を注視しています。
 かつて、最高裁は、昭和49年の東芝柳町工場事件判決、そして昭和61年の日立メディコ事件判決によって、雇止め濫用法理という有期契約労働者の雇用保護を前進させる重要な判決を出されました。本判決において、最高裁が有期契約労働者が抱える不合理な労働条件の是正にとって意義ある判決を下されることを切望するものであります。

8.本裁判に対する筆者のささやかなる感想

1)平成18年4月1日施行改正「高齢者雇用安定法第9条1項」では、65歳未満の定年の定めをし
 ている事業主に対して、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため
 に、高齢者雇用確保措置として次の何れかの措置を講ずる事を義務付けております。
 ①定年年齢の引上げ(定年年齢を65歳とする)
 ②継続雇用制度の導入
 ③定年の定めの廃止
  現在の日本の産業界の定年年齢は、高齢者雇用安定法8条の規定に従い、60歳を下回る定
 めを為すことは禁じられています。労働基準法等の他の法令には定年年齢に関する具体的な
 定めは為されていないので、現在においても唯一当該定めが定年年齢を定めた明文の規定と
 言えます。但し、現在の老齢基礎年金及び老齢厚生年金は原則として、65歳から支給される
 事となっているので、一部の極めて恵まれた労働者を除き60歳定年退職後の殆どの労働者
 は、65歳に達するまでは、生計を維持するための収入が十分とは言えませんでした。このた
 めに政府は65歳までの生計を確保するための経過措置として、産業界に対して上記の様な高
 齢者雇用確保措置をとることを求めております。

2)この様な状態を緩和するための経過措置として現在、60歳代前半の「特別支給の老齢厚生
 年金」制度が実施されており、厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢を60歳から65歳に向
 けて繰下げ措置を実施中であります。高齢者雇用安定法も事業主に対して、厚生年金の報酬
 比例部分の支給が開始されるまでの間、継続雇用を希望する労働者の雇用継続を義務付けて
 おります。

3)平成37年(令和7年)4月1日以降は上記の経過措置が完了して、原則として老齢基礎年金
 及び老齢厚生年金は65歳から支給される事となっています。そうなれば、産業界は上述の労
 働者の定年年齢を65歳を下回る定めを為すことが出来なくなり、高齢者雇用安定法上も定年
 年齢を65歳以上とする明文の規定を設けるものと思われます。

4)長澤運輸事件を筆頭に、これまで60歳定年退職後の継続雇用の労働者について、労働契約
 法20条絡みの労働紛争が頻発してきましたが、これは上述したように法律上の定年年齢は60
 歳であるにもかかわらず、65歳に達するまでの生活の安定が保障されないと言った、過渡的
 な制度上の問題から発生した事件と言えます。但し、産業界の労働慣行として既に約8割の企
 業が、希望する労働者には、65歳までの継続雇用制度を導入しています。将来的には現在の
 高齢者雇用安定法8条に規定の60歳の定年年齢の定めは、65歳に引上げられるはずであり、
 そうなればこの問題は解消されるものと思われます。但し、少子高齢化に伴う年金財政のひ
 っ迫により、年金支給開始年齢を65歳から70歳に引上げたいとの政府の腹案もあるようです
 が、そうなれば定年年齢も再度70歳に向けての引上げが必要となるでしょう。

5)ハマキョウレックス事件と長澤運輸事件とは、共に労働契約法20条違反を問う事件ではあり
 ますが、その内容はかなり異なると言えます。

  長澤運輸事件の場合には、定年退職後の嘱託社員の定年年齢が60歳から65歳に延長されるま
 での期間に限定された過渡的な問題であり、定年年齢が法令上及び労働慣行上も、65歳に引上
 げられれば自ずと解消される問題であると言えます。

  これに対してハマキョウレックス事件の場合には、非正規雇用労働者全般に対する労働条件
 の格差がもたらす様々な社会的ひずみが表面に現れた事件であり、非正規雇用労働者である限
 り一生涯付きまとう大きな問題と言えます。

  当該事件における原告労働者は平成20年10月入社以来、平成30年6月最高裁の判決が下され
 るまでの約10年間に亘り、半年ごとの有期労働契約の更新を行ってきました。この間遂行する
 業務内容には何ら相違がないにもかかわらず、定期昇給もなく、無事故手当、作業手当、給食
 手当、住宅手当、皆勤手当、通勤手当、家族手当、賞与、退職金、等の正規社員に支給されて
 いる手当のほとんどが支給されておりませんでした。察するに、正規社員との生涯収入の格差
 は倍以上に達するものと思われます。このような格差は当該会社に勤務を継続する限り未来永
 劫に生じるものであり、正に労働契約法20条が禁じている労働契約期間の定めがあることによ
 り生じた格差以外の何物でもなかったといえます。

  両事件共に「同一労働同一賃金」に関する格差を問う事件ではありますが、ハマキョウレッ
クス事件の方がより「同一労働同一賃金」の理念に照らした格差のもたらす社会的な歪が大き
く、これからの日本において本腰を入れて改善が問われる案件であったと言えます。即ち、当
該ハマキョウレックス事件こそが、労働契約法20条において期間の定めがあることによる不合
理な労働条件の格差を禁じる基本的な考え方が該当する、典型的な事案であったといえます。

  最近の総務省の統計によると、日本の労働者総数に占める非正規雇用労働者の割合が40%近
 くにも達していると
のことですが、決して他人事とは言えません。嘗ては噂話で、周りに派遣
 やパー
トで働いている人もいるようだと言った程度の認識でしかなかったでしょうが、今では
 周りを
見渡してみれば最早どの地域、どの家庭でも当たり前に目にする光景となってしまった
 と言え
ます。しかもその労働条件の格差が決して看過できないほどの大きな社会的ひずみを生
 み出し
ている事を忘れてはいけません。正にこれから日本においても遅まきながら、本腰を入
 れて対
処することが求められる重大案件と言えます。もう既に現実の問題となっている少子高
 齢化及
び労働力の不足等の問題を解決するには、決して避けて通る事の出来ない大きな社会問
 題と言
えます。

6)日本が長い低成長期に移行した1991年以降においては、それまで日本型雇用の3大特徴と言
 わ
れていた「終身雇用、年功序列、企業内労組」と言った労働慣行が消滅しつつあることがあ
 げ
られます。又、この数年働き方改革に関連して、日本においても遅まきながら「同一労働同
 一
賃金」の考え方が台頭してきたために、「正規社員」と「非正規社員」の格差の大きさが社
 会的
に注目を浴びるようになってきております。その手掛かりとなったのが平成2541日施
 行改
正で導入された労働契約法20条であると言えます。
  今回の労働契約法20条裁判を通して、「正規社員」と「非正規社員」の処遇(特に賃金体
 系は異なるとする従来の考え方が、かなり揺らいできていると言えます。今後の動向を大い
 なる注意を持って見守ってゆきたいと思います。
  尚、
令和2年41日以降、労働契約法20従来の「短時間労働者の雇用管理の改善等に関
 する法律」(俗に言われるパートタイム労働法)から「短時間労働者
及び有期雇用労働者の雇
 用管理の改善等に関する法律」に変更
のうえ、同法8条に吸収・統合されております。

7)宮里弁護士が原告労働者3名の委任を受けて東京地裁に裁判を提起したのが平成26年10
 月。最高裁の判決が出されたのが平成30年6月1日。実に3年7カ月の長丁場にわたる気持ち
 の休まる時の無い戦いであったといえます。しかも労働契約法20条を争点とする裁判は数多
 く提起されてきたなかで、一審の東京地裁では画期的な労働者側の完全勝訴を勝ち取り、最
 高裁まで当該裁判をもちこんだのですから、正に長い労働争議の歴史に大きな金字塔を打ち
 立てた壮挙と言えます。  

  一審で労働者側の主位的な請求である労働契約上の地位確認請求が認められ、正規社員と
 して支払われるべきであった金額と、60歳以降の嘱託社員として実際に支払われた金額との
 差額(3人合計総額で約420万円)の支払と同金額に対する年5分の割合による遅延損害金の
 支払命令が下されたことは、明治以降日本に労働者と言う階級が発生して以来、まさに画期
 的な事件と言えます。この判決を受けて、被告たる長澤運輸のみならず、日本の労働界・産
 業界は元より、法曹関係者も大きな衝撃を受けたものと思われます。

  二審においては労働者側の逆転敗訴、最高裁においては概ね二審通りの判決で、唯一精勤
 手当(1人月額5,000円、3人合計総額で約20万円)の支払と同金額に対する年5分の割合に
 よる遅延損害金の支払い命令が出された事はすでに述べたとおりです。準備段階から数えて4
 年近く費やした割には、若干成果が少ないのではとの意見も聞こえてきそうです。
  しかしながら、日本においても今後本格的議論が開始されると思われる「同一労働同一賃
 金」の実務界への浸透の面では、労働者側の予備的な請求である精勤手当の支払いについて
 労働契約法20条の部分的違反が認容されたことは画期的な出来事であったと言えます。現在
 政府が重要な政策として位置付けている「働き方改革」の中に、当該「同一労働同一賃金」
 の理念がどのように浸透してゆくのか、又、今回の長澤運輸事件の最高裁判決の成果がどの
 ように生かされていくのかを、大いなる注意をもって見守ってゆきたいと思います。

9.長澤運輸事件に関する補足資料

1)当事者資料
【被告】長澤運輸株式会社(神奈川県横浜市西区)
    創業:明治18年(1885年)

    設立:昭和39年(1964年)当年株式会社化
    代表取締役:長澤 尚明
    資本金:1億円
      貨物自動車運送事業 平成29年12月末現在運送車両84台 従業員数255名(グループ
    会社全部。非正規労働者を含む) 

【原告】定年後再雇用の嘱託社員(1年毎の有期契約)3
     
 トラック運転手(バラセメントの配送)22年~34年正社員として勤務
    平成26年に各々60歳の定年を迎えた。以後1年毎の有期嘱託社員としての契約締結

【組合】全日本建設運輸連帯労働組合 関東支部 長澤運輸分会(9名)
    本部 東京都台東区浅草橋
    設立 昭和46年(1971年)
    組織人員 約3,000人

【嘱託社員雇用期間】雇用期間は1年毎の更新で、上限は65歳に達した後の9月末又は3月末の
    何れか早い日

【原告A】昭和2812月生 昭和556月正社員として入社(入社時満26歳)、以後撤車の乗
    務員として勤務 平成263月末定年退職(34年勤務)以後現在まで1年単位の有期
    嘱託社員契約を4回更新 

【原告B】昭和296月生 昭和6110月正社員として入社(入社時満32歳)、以後撤車の乗
    務員として勤務 平成269月定年退職(28年勤務)以後現在まで有期嘱託社員契約
    4回更新 

【原告C】昭和294月生 平成51月正社員として入社(入社時満38歳)、以後撤車の乗務
    員として勤務 平成269月定年退職(22年勤務)  以後現在まで有期嘱託社員契約4
    回更新

                                        以上

2)正社員と嘱託社員との賃金等の処遇の比較

 

正社員(無期雇用契約)

嘱託社員(有期1年毎更新)

適用規定等

正社員就業規則・賃金規定

嘱託社員就業規則

基本給

月給(①在籍給及び②年齢給の合計)

89,100円~127,100

①在籍給-在籍1年目を89,100円とし、在籍1年毎に800円加算

②年齢給-20歳を0円とし、1歳に付、200円を加算

基本賃金-125,000円のみ

職務給

乗務する車の大きさにより定額

76,952円~82,952

)12t撤車-80,552

無し

能率給又は

歩合給

(能率給)
当該月稼働額に車の大きさによって異なる指数を乗じた額を支給

稼働額X3.15%4.6%

例)12t撤車-稼働額X3.7%

(歩合給)
当該月稼働額に車の大きさによって異なる指数を乗じた額を支給

稼働額X7%12%

例)12t撤車-稼働額X12%

調整給

無し

老齢厚生年金報酬比例部分が支給されない期間について、月額20,000

精勤手当

該当者には5,000

無し➡該当者には5,000円(同左)

無事故手当

該当者には5,000

該当者には5,000円(平成24年3月以後、労使団交後支給開始)

住宅手当

10,000

無し

家族手当

配偶者5,000円、子一人5,000円(2人迄)

無し

役付手当

班長3,000円 組長1,500

無し

超過勤務手当

時間外及び休日勤務手当

時間外勤務等について、労基法所定の割増賃金を支給

通勤手当

1か月定期券相当額(上限40,000円)

同左

賞与

基本給の5か月分(原則)

無し

退職金

勤続3年以上の者に支給

無し

※原告側は上記正社員と定年後再雇用の嘱託社員の賃金差額の全額の支払いを要求し、第一審の
 東京地裁判決ではその言い分が認められた。但し、第二
審(東京高裁)、第三審(最高裁)の
 判決では否認された。

➡ 最高裁で支給命令が出された手当 

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