印西市の社会保険労務士事務所です。何なりとお気軽にお声をおかけください

〒270-1323 千葉県印西市木下東4-12-7

受付時間:9時〜18時土日祝日を除く)

出張相談実施中

お気軽にお問合せください

106万円の壁が出来ました

短時間労働者への社会保険の適用が拡大されます

新たに106万円の壁が出来ました

 従来から103万円の壁、130万円の壁と言う言葉があり、どなたでも1度は耳にしたことがあると思います。平成28101日施行改正でこれに更に、106万円
の壁と言う概念が追加されました。これは以下に詳述する通り、平成
28101日より、501人以上の労働者を雇用する特定適用事業所に勤務する週所定労働時間が20時間以上、かつ、月収8.8万円(年収概ね106万円)以上の短時間労働者は、新たに厚生年金保険等(厚生年金と健康保険)の適用対象となる事を意味します。

1.概要

   1)従来の基準

 原則として、各種社会保険の適用事業所に雇用される労働者には、社会保険への加入が義務付けられておりましたが、パートタイマー等の非正規雇用労働者には社会保険への加入が義務付けられてはおりませんでした。但し、1週間の所定労働時間及び1月間の所定労働日数が、当該事業所の通常の労働者の概ね4分の3以上の労働者には、各種社会保険へ加入させることが望ましいとの、厚生労働省における社会保険適用上の運用規定(内簡)「被保険者の取扱に係る留意事項」がありました。
 従いまして、短時間労働者等の非正規雇用労働者を社会保険に加入させるか否かの判断に当たっては、事業所毎にかなり曖昧な運用がなされており、場合によっては、各事業所における社会保険料総額の
2分の1の事業主負担を逃れるために、労働者を社会保険に加入させないといった、実質的な社会保険の適用逃れといった事実も存在しました。このような実態に照らして、平成268月の法律改正で、「短時間労働者に対する厚生年金・健康保険の適用拡大」が成立して、平成28101日より施行される事となりました。

2)平成28101日施行の社会保険適用の新たな枠組み
    
厚生労働省のホームページでは、当該改正の論点として、次のような点を改善す
    る事を目的としている旨を記載しております。
  ①被用者でありながら、被用者保険の恩恵を受けられない非正規雇用労働者に被用
   者保険を適用し、セーフティーネットを強化する事で、社会保険における「格
   差」を是正する。
  ②社会保険制度における、働かない方が有利になるような仕組みを除去する事で、
   女性の就業意欲を促進して、今後の人口減少社会に備える。

    3) 平成29年4月以降の社会保険適用の枠組みの拡大
    ①平成29年4月からは、下記(1)~(3)の要件を満たせば、従業員500人以下の企
     業についても、労使の合意に基づき任意で、社会保険への加入が出来る事と
     な
りました。但し、下記記載の通り、将来的には501人以上と言った枠が撤廃
     されて、全ての企業に社会保険への加入が適用される見込です。

    ②令和2年5月に年金制度改正法が成立して、短時間労働者への社会保険適用拡大のス
      ケジュールが、次のように定められて居ります。但し、適用要件については、下
      記記載の平成28年10月からの要件中、勤務期間要件1年以上が、フルタイムの労
      働者同様2か月超の勤務期間となります。其の他の要件の変更はありません。

     イ)令和4年10月からは従業員が101人以上の企業について適用(対象者45万人増)
     ロ)令和6年10月からは51人以上の企業について適用(対象者65万人増)

       現在は新型コロナウイルスの拡大により、雇用環境はより厳しくなっており、
      勤務時間の増大による収入の増加が見込めません。上記の政府の動向を受けて、
      これまで厚生年金・健康保険に未加入の被扶養配偶者の皆様は、将来における年
      金受給額を少しでも増やすために、足元の手取り額の増加よりも積極的に年金に
      加入する道を選び始めていると言えます。

2.平成2810月からの適用拡大の論点

       ※週所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者400万人、当該改正の全要
    件に該当して適用拡大される短時間労働者25万人と推計されておりました。但し、
    令和2年5月末の政府の概況集計値では、49.6万人が自ら社会保険料を負担して厚生年
    金・健康保険に加入しているそうです。

     特定適用事業所とは、法人・個人・地方公共団体に属する適用事業所で、同一事業
    主の適用事業所の厚生年金保険の被保険者数の合計が、1年で6ヶ月以上500人を超え
    る事(501人以上)が見込まれる場合、特定適用事業所として短時間労働者の適用拡
    大の対象となります。国に属する適用事業所の場合、国の機関(司法、行政、立法)
    をすべて合わせて一つの単位として、短時間労働者の適用拡大の対象となります。


     次に改正の論点について詳解いたします。
     …下記5つの要件の全てが満たされる事が必要です。 
 

1週の所定労働時間が20時間以上である事
 週の所定労働時間とは、就業規則、雇用契約書等により、その者が通常の週に勤務
 すべき時間を言います。即ち雇用保険法の取扱と同様です。


<週所定労働時間が週単位で定められていない場合の換算方法>
1か月単位で定められている場合
 「1か月の所定労働時間」X12か月 ÷ 52

 ②1年単位で定められている場合
 「1年単位の所定労働時間」÷ 52

(注)1年間の月数を121年間の週数を52週として週単位の労働時間に換算します。

2)所定内賃金だけで計算した賃金月額が、8.8万円以上見込まれる事
  ・・・
年間106万円はあくまでも目安で、賃金月額8.8万円が基準となります。
  但し、次に掲げる賃金を除きます。

 <除外対象賃金>
 ①臨時に支払われる賃金及び1月を超える期間毎に支払われる賃金…各種慶弔金、
  賞与等。

 ②時間外労働、休日労働及び深夜労働等に対して支払われる賃金

 ③最低賃金法で算入しない事とされている賃金・・・精皆勤手当、家族手当、通勤
  手当
(非課税交通費)、別居手当、子女教育手当、従業員に対して一律に支払われ
  る住宅手当等。
(注)①被保険者資格取得届、算定基礎届の提出時は、短時間労働者についても一般​
   の労働者同様に、臨時に支払われる賃金以外の各種手当(賞与を含みます)を
   含めて届け出る事を要します。

        ②従来から存在した俗に言われる「103万円の壁」も、「106万円の壁」と同じ
       基準による賃金(収入)がカウントされます。即ち、「103万円の壁」と「106万
       円の壁」の賃金(収入)には、「通勤手当(非課税)や不動産収入、年金収入など
       の給与以外の定期的な収入は含まれません。それに対して「130万円の壁」の
       賃金(収入)には通勤手当(非課税)、家族手当、住宅手当等の各種手当や不動産
       収入、年金収入などの給与以外の定期的な収入も含まれます。

       ③「130万円の壁」は、被扶養者が60歳以上又は障害等級3級以上の場合180
       万円
となります。
       ④106万円の壁の場合複数の会社に勤務している場合は、各々の会社から受領
       する給料毎に、別々に判断します。合算して判断するのではありません
       ⑤130万円の壁の場合には、複数の会社から受領する給料を合算して130万円を
       超えていれば、被扶養者から外れて自身で年金と健康保険に加入する必要が出
       てきます。  

3雇用期間が1年以上見込まれる事・・・具体的には次の通りです。
  ①期間の定めなく雇用される場合
  ②雇用期間が1年以上である場合
  ③雇用期間が1年未満ではあるが、次の何れかに該当する場合
   ・雇用契約書に契約が更新される旨又は更新される可能性のある旨が明示されて
    いる場合
   ・同様の雇用契約で雇用された者について更新等により1年以上雇用された実績
    がある場合

(注)雇用契約の始期において、雇用期間が1年以上見込まれる場合は被保険者となり
  ます。但し、法施行日(平成28101日)より前から引続き雇用されている者
  の場合には、法施行日から起算して雇用期間が1年以上見込まれるか否かを判定
  します。又、当初は雇用期間が1年以上見込まれなかったが、契約更新等により
  その後に1年以上雇用される事が見込まれる事となった場合には、その時点(契
  約締結等)から被保険者となります。 

4学生は適用除外・・・雇用保険法と同様、学生又は生徒は適用除外となりま
 す。各種学校の場合、修業年限が
1年以上の課程に在籍する者に限ります。但し、
 次の者は被保険者となります。
  
①卒業見込証明書を有する者で、卒業前に就職し、卒業後も引き続き同じ事務所に
  勤務する予定の者
  ②休学中の者
  ③大学の夜間部在席の者及び高等学校の夜間等の定時制の過程に在籍する者…即
   ち、昼間の勤務が本職である者 

5従業員501人以上の企業である事・・・改正法施行直後の適用対象事業所
 については、改正法施行前の適用対象労働者数でカウントします。従って、改正法
施行により適用対象となる短時間労働者数は含めません

 ①平成2710月から平成287月までの各月の内、使用される厚生年金保険の被保
  険者総数が
6か月以上500人を超えたことが確認できる場合、平成28年8月頃に
  対象適用事業所に対して「施行日に特定適用事業所に該当する旨のお知らせ」が
  送付されます。法人事業所の場合は、同一の法人番号を有する全ての適用事業所
  に対してお知らせが送付されます

 ②施行日以降に特定適用事業所に該当する可能性がある適用事業所に対しても、日
  本年金機構から、「特定適用事業所に該当する可能性がある旨のお知らせ」が送
  付されます

 ③使用される被保険者総数が常時500人を超えなくなった場合であっても、引続き
  特定適用事業所であるものとして取り扱われます

 ④当面常時使用される被保険者総数が501人以上の企業を適用対象としますが、将
  来的には
当該基準が見直されて、500人以下の企業にも適用範囲が拡大される見
  込みです。即ち、
501人以上の従業員を有する大企業と言う適用枠が拡大され、
  または撤廃されて全ての企業に適用される可能性があるという事です。将来の適
  用範囲の拡大に備えて、各企業の計画的な対応が望まれます。

3.平成28年10月以後の年金等の被保険者区分

 ①当該事業所の通常の労働者の週所定労働時間及び月の労働日数の概ね4分の3以上の
 労働者には、各種社会保険へ加入させることが望ましいとの、厚生労働省における指
 針がありましたが、この場合に加入が推奨されるのは、国民年金第2号被保険者とし
 て厚生年金への加入と健康保険(健保組合又は協会健保)への加入です。

 ②当該事業所の通常の労働者の週所定労働時間及び月の労働日数の概ね4分の3未満の
 労働者であっても、年収が130万円以上の場合には、国民年金第2号被保険者として
 厚生年金と健康保険への加入が求められます。

 ③当該事業所の通常の労働者の週所定労働時間及び月の労働日数の概ね4分の3未満か
 つ、
年収130万円未満の労働者であっても、平成2810月以後に導入された新基準
(106万円の壁)に該当する労働者については、国民年金第2号被保険者として厚生年
 金と健康保への加入が求められます。

    ④当該事業所の通常の労働者の週所定労働時間及び月の労働日数の概ね4分の3未満
     つ、年収130万円未満かつ、平成28年10月以降に導入された新基準(106万円の
     壁)に該当しない被用者保険の被扶養配偶者は、保険料を納付することなく国民年
     金(第3号被保険者)に加入すると共に、夫が加入している健康保険(健保組合又は
     協会健保)に加入する事ができます。 

    ⑤労働時間が通常の労働者の週所定労働時間及び月の労働日数の概ね4分の3未満か
     つ
、年収130万円未満かつ、平成28年10月以降に導入された新基準(106万円の
      壁)に該当しない被用者保険非扶養配偶者は、国民年金第1号被保険者として国民
     年金及び国民健康保険に加入を要します。

    ※法人(俗に言われる会社)、国・地方公共団体に勤務するものには被用者保険が強制
     適用されます。個人事業所の場合には、法定16業種に属し常時5人以上の労働者を
     雇する場合に適用されます。臨時に日々雇用される者や季節的な業務に4か月以内雇
     用される者は適用除外です。

    ※国民年金の被保険者は原則20歳以上60歳未満の者が対象、医療保険の場合は75
     満の者が対象です。75歳以上になりますと後期高齢者医療制度の対象となります。

<社会保険適用チェックシート>
次に当てはまる方は、社会保険の新たな加入対象者である可能性があります

新たに加入することになる対象者

お手もとに雇用契約書や労働条件通知書、給与明細書等をご用意の上、ご確認ください。

厚生労働省ホームページ記載の文書によります。

4106万円と130万円の壁のイメージ図

5106万円の壁出現によるメリットとデメリットの検討

1)夫がサラリーマンで、妻はその被扶養配偶者の場合
夫がサラリーマンの場合、国民年金第2号被保険者として厚生年金と会社の加入する健康保険の被保険者となります。妻が当該夫の被扶養配偶者である場合、国民年金第3号被保険者となり国民年金に加入すると共に、夫の被扶養者として夫の加入する健康保険にも加入する事となります。この場合妻は、国民年金及び健康保険共に保険料の負担はありません。

 今回の改正による106万円の壁が出現するまでは、サラリーマンの妻がパートに出て、家庭の収入を補うような働き方をする場合、世間一般に、「103万円の壁」が存在すると言われておりました。これは要するに、「被扶養配偶者である妻がパートで働くときに、年間収入103万円を超えると、夫の被扶養者としての38万円の配偶者控除が受けられなくなり夫の所得税が増えるので、パート収入は年額103万円以内に抑えた方が得だ」という考え方です。しかし現実には、下記の表を見ていただければお分かりいただけるように、確かに妻のパート収入が年間103万円を超えると、夫の所得税計算上認められている38万円の配偶者控除はなくなりますが、代わって配偶者特別控除がある為に、夫の所得税は緩やかにしか上昇しません。

(追加情報)
平成15年度までは、被扶養配偶者であるサラリーマンの専業主婦に対しては、夫の所得税の計算上、妻に対する配偶者控除38万円と、配偶者特別控除38万円の合計76万円が自動的に控除されていました。これに対して就業主婦とのバランス上、専業主婦に対する課税上の配慮が過大であるとの批判がありました。そこで就業主婦との格差を是正し、専業主婦の就労を促進する為に専業主婦に対する38万円の配偶者特別控除は廃止されることとなりました。しかしながら、いきなり配偶者特別控除制度を廃止したのでは、下記妻の所得金額48万円(妻のパート収入で言えば103万円)を1円でもオーバーすれば配偶者特別控除が適用されず、夫に対する所得税負担が一気に増えるために不公平であるとの批判がありました。このため平成16年度からは急激に税負担を大きくしないように、それまでにもあった被扶養配偶者の所得金額に応じて、配偶者特別控除額を段階的に圧縮する、経過的な配偶者特別控除制度がそのまま温存され、現在に至っております。

令和2年からの配偶者控除と配偶者特別控除        (単位:万円/年)

 

妻の収入(A)

所得控除(B)

所得額(C)(A-B)

夫の年収区分ごとの控除額(以下)

1,120

1,170

1,220

1,220万超

配偶者
控除

103万以下

55

48万以下

38

26

13

0

配偶者 特別控除

103万超150万以下

55

95万以下

38

26

13

0

155万以下

55

100万以下

36

24

12

0

160万以下

55

105万以下

31

21

11

0

167万以下

57

100万以下

26

18

9

0

175万以下

60

105万以下

21

14

7

0

183万以下

63

110万以下

16

11

6

0

190万以下

65

115万以下

11

8

4

0

197万以下

67

120万以下

6

4

2

0

201万以下

68

123万以下

3

2

1

0

201万超

68

123万超

0

0

0

0

 

所得区分

900万以下

950万以下

1000万以下

1,000万超

・平成31年度の税制改正で給与所得控除額は、それまでの65万円から55万円にな
 りました。

・上記収入には、非課税交通費や障害年金、遺族年金は含まれません。

・配偶者控除を受けられる場合には、配偶者特別控除は受けられません。配偶者特
 別控除を受けられる場合には、配偶者控除は受けられません。平成16年度から
 は、配偶者控除と配偶者特別控除は何れか一方のみ適用される事となった。

・平成30年度の改正で、配偶者控除及び配偶者特別控除共に、配偶者(夫)の年間
 収入が、1,220万円(年間所得で1,000万円)を超えるときは、適用されない事と
 なった。

・平成30年度の改正後も、妻の103万円と130万円の壁は無くなりません。即ち、
 ①妻の年収が103万円を超えると、従来通り、妻自身は自らの所得税の支払いが
  必要となります。②妻自身の年収が130万円を超えると、従来通り、妻自身は
  夫の扶養から外れて、厚生年金と健康保険に加入する必要が出てきます。

・平成30年度の改正で、夫の年収が1,120万円(所得で900万円)を超える世帯にと
 っては増税となります。但し、国税庁の公表値によると、年収1,000万円以上の
 給与所得者は全体の5%未満という事ですから、全体としては減税の方向の改正
 となりました。来るべき少子高齢化と労働者数不足を念頭においた、家庭の主婦
 を極力、労働力市場に取り込もうとする施策の表れと言えます。

106万円の壁が適用されない被扶養配偶者の場合
 今回改正の、106万円の壁が適用されない501人未満の中小企業等に勤務する妻の場合には、被扶養配偶者から外れて自分で厚生年金と健康保険に加入する必要が出る130万円の壁に達する迄は、妻自身も出来るだけ働いて、一家の収入を増やすようにした方が一家の手取り収入が増え、経済的にも潤う事となります。そういう意味ではサラリーマンの妻のパート収入は130万円未満に抑えた方が有利と言えます。130万円の壁は確かに存在しますが、103万円の壁は存在しないと言えます。但し、前出のグラフを見ていただければお分かりの通り、妻のパート収入の伸びに対して、世帯の年間手取り額の伸び率は若干低下するのは事実です。足元の一家の手取り収入の増減とは別に、社会保険、特に厚生年金に加入する事のメリットについては、下記④で詳述します。 

106万円の壁が適用される被扶養配偶者の場合
 平成28101日施行改正による106万円の壁発生後は、501人以上の労働者を雇用する大企業に勤務する短時間労働者である妻の場合、年間パート収入が106万円に達すると、原則として妻自身の勤務する事業所の厚生年金及び健康保険の被保険者として同保険への加入が義務付けられ、保険料が控除されます。その意味では、世帯の足元の手取り額だけを考えれば、妻のアルバイト収入は年間106万円未満に抑えた方が有利と言えます。但し、後述の通り、将来受取る年金受給額の増加を考えればそうとは言えない事に注意が必要です。

 上記一覧表(4(2))に記載の通り、妻の年間のパート収入が106万に達する前は、妻のパート収入が増えた分だけ家庭の手取額も増えております。但し、106万円に達すると妻は夫の被扶養配偶者から外れ、妻自身の厚生年金と健康保険の保険料の控除が開始されるために、一家の手取額は減少します。そして妻の年間のパート収入が120万円を若干上回る程度に達するころにようやく一家の手取額が106万円の壁発生直前の103万円のレベルに回復します。即ち、妻自身の厚生年金と健康保険の保険料が控除されるために、世帯の年間手取額は、130万円の壁に達する迄は20万円弱目減りするという事です。

学生アルバイトの場合(参考)
 学生アルバイトの場合には、親御さんの所得税の計算において、上記の38万円の「配偶者控除」に相当する「扶養者控除」がありますが、それに続く「配偶者特別控除」に相当するものはありませんので、アルバイト収入を年間103万円までに抑えた方が良いと言えます。子供のアルバイト収入が年間103万円を超えると、子供は親御さんの扶養家族から外れ、親御さんの所得税計算上38万円の「扶養者控除」が無くなると共に、微々たる金額ではありますが、学生自身に所得税と住民税の負担が生じます。最も、「勤労学生控除」の申請をすれば年収130万円までは所得税と住民税が免除されるそうです。但し、130万円以上になると、親御さんの健康保険から外れて自分で国民健康保険への加入が必要となります。従って、学生の年収が150万円以下なら、親御さんと学生の収支総額から考えて、学生のアルバイト収入は年収103万円以下に抑えた方がお得と言えます。

 更に忘れてならないのは、20歳以上の学生は、就職して厚生年金に加入するまでの間、国民年金第1号被保険者として国民年金保険料を納付する必要があります。この保険料を親御さんが支払っている場合には、当該金額は親御さんの所得から控除されますが、本人が支払っている場合には本人の所得から控除されます。もし国民年金保険料を納付することが困難であれば、学生納付特例の規定に従って申請をすれば学生である間、納付を免除してもらえます(学生である間、毎年申請する必要があります)。但し、納付の免除を受けている期間と言うのは、国民年金保険料の未納期間であり、将来追納しない限り、この部分は老齢基礎年金の支給額に反映されません。障害基礎年金と遺族基礎年金に関しては反映されます。

厚生年金への加入による年金受給額の増加
 106万円の壁出現により厚生年金と健康保険への加入が義務化され、社会保険料が控除されて損したような気分になると思いますが、厚生年金の保険料を支払うという事は、将来年金を受給する年代に達した時に、国民年金老齢基礎年金(令和2年現在満額で年間781,700)の他に、納付した保険料に応じた老齢厚生年金を受給することが出来る事を意味します。従って足元の厚生年金保険料を支払うことは、将来に対する一種の貯金と考えられ、将来受給可能な年金受給額を増やすこととなります。この事は、106万円の壁と130万円の壁共に同じことが言えます。年金保険料の支払い額と受給額の比較は次の通りです。

   サラリーマンの妻の場合の支払保険料と年金受給額の比較  (単位:千円)

社会保険

支払保険料(40~60)

厚年受給額(65~85)

差異

厚生年金

9.1

11.5

2.4

109

138

29

20

2,180

2,760(127%)

580(+27%)

健康保険

5.8

5.8

70

70

20

1,400

1,400

合計

14.9

11.5

-3.4

179

138

-41

20

3,580

2,760(77%)

-820(-23%)

      ※上記は、夫が平均的なサラリーマンの主婦である被扶養配偶者が、パートの月額
      報酬が
10万円で、40歳から60歳まで20年間勤務し、年金を65歳から85歳までの
      20年間受給する場合を想定しております。

 厚生年金の保険料率は、平成28年現在の料率である18.182%を、健康保険料率も同年の東京都協会けんぽの介護保険料率込みの11.54%を適用しております。各料率の2分の1ずつを事業主と労働者で折半して納付します。上記の社会保険料は、本人負担分のみを記載しております。 

  厚生年金と健康保険の支払った社会保険料全額で比較すると、厚生年金受給額  が支払った保険料総額に比較して23%ほど不足しており、あまりメリットがある  とは言えません。次に述べている夫が自営業者である妻の場合に比較すると、そ  のメリットはかなり乏しいと言えます。但し、厚生年金だけで比較すれば1.27  倍と大きなメリットが期待されることと、下記に記載の通り健康保険に加入する事のメリットを考えると、単に保険料を支払っただけ損だと言う考え方はできないと言う事が言えます。 

  従って、106万円の壁の出現によって、社会保険料の負担が増えて働くインセンティブに乏しいような感じを受けますが、将来受給可能な年金受給額を念頭に入れると、週20時間以上の短時間労働者の社会保険に加入することのメリットは充分あると言えます。更に被保険者がけがや病気になった場合の障害厚生年金の支給や、不幸にして労働者が亡くなった場合の遺族に対する遺族厚生年金の支給等の各種の社会保障を考えると、厚生年金に加入するメリットはさらに大きくなります。

 忘れてならないのは健康保険に加入するメリットです。協会けんぽ等の健康保険には、国民健康保険には無い被保険者にとって有利な制度があります。その一つが傷病手当金と言う制度です。これは労働者が病気やけがで継続して3日以上休業した場合、4日目から1年6か月にわたって標準報酬日額の3分の2が支給されると言う制度です。傷病手当金は、被扶養配偶者として夫の健康保険に加入している場合には支給されません。更に出産手当金と言う制度があり、産前6週間・産後8週間にわたり、妊産婦が妊娠・出産のために労働不能日の標準報酬日額の3分の2が支給される制度です(国民健康保険には出産一時金はありますが、出産手当金の制度はありません)。
 更に、厚生年金に加入した場合には、国民年金の障害基礎年金に加えて、障害厚生年金の受給権が生じる可能性があると言う事です。従って、単に目先の支払保険料の負担の大きさだけを考えるのではなく、将来受給できる様々な社会保険上の給付額の増加及びその他のメリット・デメリットを長期的・総合的に考える事が重要となります。

2)夫が自営業者で、妻にパート収入がある場合
  夫が自営業者で、妻が
130万円に満たない程度のパート収入がある場合、106
   
万円の壁が発生する前は、夫妻共に第1号被保険者として、国民年金第1号被保険
 者、国民健康保険の被保険者となっていました。
106万円の壁発生後にパート収
 入のある妻の勤務先の会社に厚生年金と健康保険制度がある場合には、国民年金
 第2号被保険者として当該勤務先の会社の厚生年金と健康保険制度に加入する事と
 なります。

  国民年金第2号被保険者として勤務先の厚生年金と健康保険に加入した妻の場合
 の保険料は、それ以前の国民年金保険料と国民健康保険の保険料に比べてかなり
 減少します。更に、厚生年金に加入した事による将来の年金受給額が増加する事
 は、上記のサリーマンの妻の場合と同じです。
 

 ①自営業者の妻の場合の社会保険料支払額の比較
       (国民年金第1号から第2号への変更に伴う差異)         (単位:千円)

社会保険料

変更前(40~60)

変更後(40~60)

差異

年金

 

国民年金(第1号)

厚生年金(2)

16.26

9.1

7.16

195

109

86

20

3,900

2,180(56%)

1,720(-44%)

健康保険

 

国民健康保険

協会健保

6.7?

5.8

0.9

80

70

10

20

1,600

1,400(88%)

200(-12%)

合計

22.96

14.9

8.06

275

179

96

20

5,500

3,580(65%)

1,920(-35%)

           () ①上記は、夫が自営業者で、夫婦ともに国民年金第1号被保険者であった家庭の主
      婦が、パート月額報酬が
10万円で、40歳から60歳まで20年間勤務した場合で、
      国民年金から厚生年金に、国民健康保険から協会けんぽに変更になった場合を想
      定しております。年金の受給は
65歳から85歳までの20年間を想定しています。
      ②国民年金の保険料は、平成28年現在の月額16,260円を40歳から60歳までの
      20年間納付、健康保険料率は同年度の東京都協会けんぽの介護保険料率込みの
      11.54%を適用しております。国民年金と国民健康保険の保険料は本人が全額負
      担しますが、厚生年金保険と協会けんぽの保険料は2分の1ずつを事業主と労働者
      で折半して納付します(上記は本人負担額のみを記載)。

          ②同上の妻の支払保険料と年金受給額メリットの合計  (単位:千円)

社会保険料

保険料(40~60)

保険料(40~60)

差異(メリット)

年金+健康保険料

 

厚生年金(2)+協会けんぽ

国民年金(1)+国民健康保険

14.9

22.96

8.06

179

275

96

20

3,580

5,500

1,920(+35%)

厚生年金受給額のメリット

 

保険料支払額

年金受給額(65~85)

9.1

11.5

2.4

109

138

29

20

2,180

2,760(127%)

580(+27%)

合計

24

34.46

10.46

288

413

125

20

5,760

8,260

2,500

       上記の通り、自営業者の妻が働きに出てそれまでの国民年金から厚生年金、国
      民健康保険から協会けんぽに加入した場合、20年間加入で192万円(+35%)の保
      険料減少によるメリットが出てきます。更に65歳から85歳まで20年間受給する
      厚生年金の支払保険料との差額のメリットが58万円(+27%)あります。両者の20
      年間のメリットを合計すると、250万円の大きなメリットとなります。 

 従いまして、夫が自営業者の妻の場合は、今回の改正による106万円の壁の出現による国民年金から厚生年金への加入変更及び国民健康保険から協会健保への加入変更により一家の手取り額がかなり増える事となります。今回の改正をチャンスとして積極的に活用する事が望まれます。事業所によっては、社会保険料の2分の1の事業主負担を回避するために、年間106万円以上のパート収入のある自営業者の妻たる労働者を社会保険に加入させることを拒否する場合も考えられます。但し、将来的には501人以上の大企業だけではなく、中小企業にも適用が拡大されますので、将来に備えた早めの対応が重要となります。

6.まとめ

1) 106万円の壁出現によるメリットとデメリット
 106万円の壁出現によるパートタイム労働者の社会保険への加入については、以上の通り、夫が平均的なサラリーマンの場合には、足元の一家の手取り額だけを考えるとあまり大きなメリットがあるとは言えませんが、夫が自営業者の場合にはかなり大きなメリットがある事が確認できました。夫が平均的なサラリーマン家庭の場合であっても、足元の社会保険料の控除が増える事によるデメリットだけを気にするのではなく、将来受給できる年金総額が増えることに着目して、長期的・総合的なメリットを享受することが大事と言えます。 

2)106万円の壁を回避したい場合の方策
 106万円の壁を回避するための方法としては次のようないくつかの方策が考えられます。  

働く時間を20時間未満にする・・・但し、労働時間が限定されるために、一家の手取りはさほど増えません。

年収を106万円未満にする・・・但し、106万円の壁と130万円の壁に関しては、俗に言われる103万円の壁とは異なり、年末に至って働き方を変えて、年収を調整することはできません。106万円と130万円の壁における年収は、年末に至ったときの実際の年収を言うのではなく、常態として働けば年間到達するであろう年収見積額を言います。

③従業員数501人未満特定適用事業所に勤務する・・・但し、3年後の平成314月には当該基準が見直され、501人未満の中小企業にも今回の改正の適用範囲が拡大される可能性が高い事です。 

 従いまして、社会保険の適用を回避して、目先の社会保険料の支出を抑える事に注力するのではなく、将来における年金受給額が増える事のメリットに注目して、積極的に社会保険に加入する方策を探った方がより妥当な選択と言えます。

 又、事業主にとっては社会保険の適用を回避して、目先の社会保険料の支出を抑える事に注力するのではなく、各種の社会保険の完備による従業員の確保や定着による長期的な企業の発展を目指すことが大事と考えられます。今日において法の予定した正当なる社会保険に加入する事は、会社を維持して将来的な発展を支えるための必要不可欠な一種の福利厚生費の支払いと言えます。 

 従業員にとっても、目先の社会保険料の控除による一家の手取り額の減少と言ったデメリットのみに着目するのではなく、労働者自らが社会保険に加入する事の総合的なメリット、特に将来における年金受給額の増加と各種の社会保障の充実に着目して、積極的に社会保険に加入する方策を取るほうが、来るべき少子高齢化社会に適合したより望ましい選択と言えます。
                                   以上

お問合せ・ご相談はお電話またはメールにて受け付けております。まずはお気軽にご連絡ください。HP掲載記事に対する反論・お問い合わせも歓迎いたします。

お電話でのお問合せはこちら

0476-42-8590

受付時間:9時〜18時(土日祝日を除く)